Q.好きな人の机に本命チョコを入れてるところを本人に発見されたらどうする?
A.逃げる

ということで、私は森山と全力で追いかけっこをしていた。上へ上へと階段を上るなんて逃げ場がどんどん狭くなるのはわかっていたが切羽詰まった私はしゃにむに階段をかけあがった。
バンッ、と開かれた最後のドアは屋上に繋がっていた。行き止まりだ。こうなるともうホントに逃げ場が無くなってしまったので観念して、私を追いかけて屋上にやってきた森山を見やった。

「はっ…名前ちゃん…意外と照れ屋なんだね。」

普段なら勘違いするな、と一刀両断できるのにこの状況だとぐうの音もでない。反論できない代わりに森山と交差した視線を反らした。

「それ、…友達に頼まれたやつだから」

私は視線を外したまま、森山の持っているそれにそう付け加えた。こんなときまで素直になれない自分が嫌になる。

でも、このまま友達のままでいた方がいいのかもしれない。そんな私の思いは森山にバッサリと切り捨てられた。

「違うだろ」

「…なんでそう思うの」

「俺が名前ちゃんを好きだからだ。」

「はっ、…なにそれ!り、理由になってないじゃん」
森山が私を好きだと言ったのが信じられなくて言い返した。その私の声は震えていた。

「あー、もう、何て言うか願望だよ、願望!俺が名前ちゃんを好きだから、名前も俺を好きだったらいいなって思ったの!」

そう叫んだ森山は驚くほどに赤くなっていて、いつも女の子を口説いているときとは全然違った。それを見て、私はからかわれて言っているのではないと思った。

それに私も森山と同じことを考えていた。
私が森山が好きだから、森山も私を好きになってくれたらいいなぁと淡い夢を描いていた。

まさか森山の口からそっくりそのまま私の思いが出てくるとは思わず、内心すごく驚いた。そしてこれが運命ってやつなのかもしれないと本気で思ってしまった。

「は、恥ずかしいやつ!」

その言葉は森山に対してなのか、自分に対してなのか。きっと両方だ。

「恥ずかしくてもいいよ、名前ちゃん、正直に教えてくれないか?俺好き?」
開き直ってそう、私に問うた森山の声が、真剣で甘くて熱っぽくて。心臓が苦しくなった。好きだと思った。

ドキドキと脈打つ心臓をいなすように、胸を手で押さえつけて口を開く。

「好き…じゃない、の反対…」

なかなか素直になれない私なりに、精一杯、思いを伝える。ひねくれてるかもしれないが、これが私なりの伝え方だ。


私の返答を聞いた森山が1歩距離を縮めて、「だ、抱き締めてもいい?」と言った。緊張した面持ちの森山に私がしていた緊張なんて吹っ飛んでしまって、くすりとバレないように笑った。

 

 

BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -