「どうしよう」

綺麗にラッピングされた黒い炭のようなものを見て私はため息をついた。バレンタイン、荒北に渡そうと手作りで勝負してみたのだが大失敗だ。焦げたチョコの残骸はあまりにも無惨で泣きたくなる。


作り直せるなら作り直したいが、時刻は始業30分前。いくら学校まで近いとはいえそろそろ出ないと遅刻だ。

私はチョコ(と思いたい)をカバンに入れると、すぐさま家を出た。



時は過ぎ昼休み、ついに来てしまった。実は昨日荒北にチョコ楽しみにしててね、と言ってしまったのだ。そして平日、荒北に会えるのは昼のみ。となると必然的に渡すのはこの時間だろう。

「名前」と教室のドアの前に立つ荒北に呼ばれ、私は重い腰を上げた。

前を歩く荒北に続き、いつものように屋上に移動する。その間も私はどうしよう、どうしようと頭の中で解決策を考えたけどこう言うときに限って何も出てこなかった。


「で?名前チャン何か忘れてるンじゃナァイ?」

屋上に着いて一言目、荒北がそう言った。もちろんチョコのことだろう。一応弁当と一緒に持ってきたから手元にはあるが、渡す気はなかった。

「チョコならあげないよ」

「ハァ?なんでだヨ」

荒北が眉をつり上げて不満げな声を漏らす。

荒北には多分口で言っても理解してくれないだろうから仕方なく、炭のようになっているチョコを見せた。
「失敗したから」

そしたら荒北は「いーからよこせ」と言って、私の手からチョコの袋を奪い取ると、止めてあった金色の針金を外して中からチョコを取り出した。

私が、だめ、という間もなく荒北は躊躇うことなく口にほおった。


「クソまじィ」

「なっ、ひどい…!」

「来年はもっとうめェもん作れヨ」

その言葉に私は驚いた。


今年は3年生で荒北と私は別々の大学に行くから離れることになってしまう。最悪自然消滅してしまうかもしれないと、ネガティブなことばかりが頭をぐるぐると回り続けていた私には、"来年は"という言葉はすごく嬉しかった。

「来年は、失敗しないよ!」
そう叫んだら、うっせェと言われてしまったけど、そう言った荒北は青空をバックに笑っていた。



20140216

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