マイムマイム

というわけでエースさんに道連れ……じゃなくて、道案内されることに。
不安しかありません。胃が痛くなってきた。
そして私の胃痛の原因は、
「ははっ、良いことをすると気持ちがいいなあ」
横で呑気そうに笑っていらっしゃいます。
楽しそうで何よりです。
取り敢えず情報収集を、とエースさんに話しかけてみる。
ここが何の国でアリスがどうしているのかとか。
知は力なりという言葉があります。
知らなければ何も行動することはできません。
とにもかくにも、アリスについてですが……。
「アリス居るんですか!」
「アリスのこと知ってるんだ?」
「はい。一方的にですが」
どうやらアリスは私より先にここに着いていたらしい。
けれど、それほど長くはたっていないそうで。
――オープニング終わった直後とみました。
何となく話振りから推察する。
「やっぱり余所者って有名人なんだね」
「そうですね。どこに滞在していらっしゃるんですか?」
「確か帽子屋屋敷だったかな。女の子がマフィアの巣窟に滞在なんて危険だよなぁ。心配だぜ」
「確かに心配です」
主にそこのボスの手の早さとかね。
最速ですからね、本当。
「一応、やめておいた方が良いよって言ってあげたんだけどね」
爽やかな笑顔。
確かに爽やか。超好青年っぽい。
もちろん私は知っているのだ。
この笑顔の下に、とんでもない狂気が隠されていることに。
でも知っていても騙されそうなくらい、その笑顔は曇りがなかった。怖ぇ。
さて、あともうひとつ重要な質問。
――ツインじゃないかどうか、確かめておきませんと。
つまり卵さん達がいるかどうかである。
可能性は少ないが、不安要素は潰しておくに限ります。
「あの、エースさん」
するとエースさんは、
「エースで良いよ。なんかさん付けで呼ばれるの気持ち悪いや」
「ではエースと呼びますね」
「で、どうしたの?」
「帽子屋屋敷の門番さんって、そっくりの双子さんですか?」
「うん、ディーとダム。ブラッディーツインズ、君の言う通りそっくりな双子だよ」
「そうなんですね! 嬉しいです!」
これでハートの国で確定ですね!
よかったです。やっぱりハートの国が原点にして頂点ですから!
――よっしゃー! やっほーい!
「……君、やっぱり変だね」
再びホッピングしはじめた私を見て、エースは笑った。
やっぱりその笑顔、怖いです。

そしてあんまり考えたくなくて、さっきから思考を遮断していた事。
――ここはどこなんでしょう……。
先程からまったく代わり映えしない景色を見ながら考える。
おんなじところをぐるぐる回ってるとか……可能性は多大にあり。
さっき見た限りではそこまで森が深いといったわけでは無さそうだ。
森というよりは、ちょっとした木の集団である。
普通に歩いても、街にたどり着くまであと何時間、いえ、何時間帯かかるのでしょうか……。
うう、頭が痛くなってきました。
――うーん、どうやってこの騎士さんを撒くかですね。
撒く。つまり逃げるということである。
しかしこれからこの国でやっていくならば、自分の印象を悪くするのは得策ではないだろう。
不自然無くお別れできる方法を模索しながら歩く。
――あっ。
「エース、私、お花摘みに行って参ります」
これならまったく問題ない。ちょっとトイレの長い子だと思われるくらいである。
そして、この次会ったときは「いやー、迷っちゃいましてー。森って全部おんなじ景色ですからー」で。
完璧である。
私は心の中で勝利の笑みを浮かべた。
「お花摘み? ああ、トイレか。分かった、ここで待っているよ」
「はい! ありがとうございます」
エースは何の疑いもなく私を見送ってくれる。
「迷わないようにな〜っ」
「はい!」
――すみませんエース! また後でお会いしましょう!
そう思い残して、その場をそそくさと離れた。

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