私は歩く歩く歩いて

帽子屋屋敷に来ております。
――ブラッドに本読ませてもらったり、
「きゃぁあ可愛い! この薔薇さんもめっちゃ可愛いですお名前は? ほえ〜〜ベテランズオナーと申されるのですね、きゃあ可愛い、なんという美しさでしょう!!! まるで図鑑の中から飛び出てくるオナー、オーラ、オーク! それは豚〜ふふふ」
「ゆり」
「はい、なんでしょう! ブラッドさん家の薔薇の種類を教えてくれる気になりましたか!?」
「うるさい」
「誠にすみませんでした」
「その図鑑を持って庭を散歩すればわかるんじゃないか? いや賢明な君のことだ、やってわからなかったから私に聞いているな」
「その通りです。この万年庭無しガーデニングド素人には全部一緒に見えました。いけずせず教えてくださいよ〜〜〜」
「自分で見分けられるようになった方が楽しさも増すさ」
「む〜〜〜! ちなみにアリスが借りた本とかって教えて頂いても?」
「断る。そう簡単にお嬢さんの情報が手に入ると思ったら大間違いだぞ」
ちぇ、ばれてら。ブラッドったら賢いんですよね。
「ぷぅ」
「そんな顔をしても何も出てこないぞ」
「……頑張って見分けられるようになります。この本お借りしても?」
――エリオットをもふったり、
「エリオット〜〜! ふわふわさせてください! わんわん!」
「本当に好きだな……会うたびに頼まれている気がするぜ」
「わんわん、わんわん、わんわんわん! はうわ〜幸せの手触りがします、よすよす」
おーいぇー。
「わっ」肩車された。
「触りやすいだろ? 引っ張るなよ」
「わーーーたかーーーー落ちて死にそうです!」
「落とさねぇよ」
「エリオット最近どうですか? いい感じでアリスと楽しく過ごせていますか? ハッピーライフハッピーホームですか?」
「ああ! この前のお茶会でにんじんのシフォンケーキが出たんだ、おいしかったなぁ……」
「シフォンケーキですか、ハッピーですね! お茶会ってアリスとですかね?」
「アリスとブラッドと、俺」
「アリスもおいしいって言ってたぜ。小食だからってあんまり食わなかったけど」
「アリスのお墨付きなら是非食べてみたいですねぇ……じゅるり」
「また用意しといてやるよ」
――ディダムと遊んだり、
「あっゆりだ」
「ゆり〜」
「ディダム! はろはろです!」
「なんでウサギ乗りしてたのさ」
 肩車と書いてウサギ乗りと読む。ストーンウェーブ文庫もびっくりのルビですね!
「わんわんをもふらせて頂いていました」
「わんわん……?」
「ゆりって目が悪いんだね」
「いいえ違います、もふもふしているものは全てわんわんです」
――にゃんにゃんもわんわん、めぇめぇもわんわん、わんわんもわんわん。
「やっぱり頭がアレなんだよ兄弟。そっとしておこう」
「そうだよ。ゆりは落とし穴要員なんだから、それ以外期待しちゃだめだよ」
「この前の罠かかりました?」
「かかったかかった!」
「すごかったよ〜大漁で、しばらく的に困らなかった」
「まと……」
「もっと教えてよ、罠とか落とし穴とか」
「教えてくれなきゃ切っちゃうよ」
「切られなくても教えますよ、レッツゴートゥ森!」
「ゆりが誘ってきたんだからサボリじゃないよね」
「これは客人をもてなしてる立派な仕事だよ兄弟、存分に遊ぼう」
私たちは森へ向かって駆けていく。
言い訳させてください。倫理観を放り投げてディダムの罠づくりを手伝っているのにはいくつか理由があるんです。
1つ目、罠の位置を教えてもらうため。危機察知能力を持たない私は、森をただ歩いていると死ぬ。森をなめたら死にますよあなた。至るところに落とし穴を含む様々な仕掛けがなされていて、とても歩けたものじゃない。
一度だけ落とし穴にかかったことがあるが、未完成の物だったらしく私がすっぽり埋まるくらいのただの深〜〜い穴だったので一命はとりとめたが……。アナザーなら死んでた。じゃなくても運が悪ければ死んでた。
2つ目、その情報をアリスへ渡すため。アリスも私と同じく予知能力が低い。彼女を守るために必要なのは情報ですから。
3つ目、楽しいから! 法令がないっていいですねぇ!!! 共犯って楽しいですねぇえ!!!
「さて、今回はくくり罠第二弾にしましょう! 縄とありったけの木の枝をもってこーーい、です!」
「ラジャー!」
――……という風に、楽しく過ごしているのだった。
ゆりちゃん大勝利〜〜〜!!!

仕掛けた罠と、教えてもらった罠の位置を地図に書き込みながら街を歩く。
たくさんの顔のない人とすれ違う奇妙さにも慣れてしまった。
――そうなんですよね、私、あんまり時間を大切にしているほうじゃなくて……。
役なしがたくさん居るところに居住していないからかもしれないが、私はいまだに一人も役なしの顔を判別できていない。
「残像さんは見分けようがないですし……」
ユリウスのところに来た残像さんに話しかけたら怒られますし……

回想
ゆり『あっ初めまして残像さん、お会いできて光栄です。ゆりと申します。2、30質問よろしいですか』
ユリウス『黙れ(大文字)』
回想終わり

「街の中で残像さんに会えればいいんですけど、運がいいのか悪いのか、まだ出会ってませんし……エースがお仕事しすぎてるのかもしれないですね。アイツを縛り上げればワンチャンネコチャンくらいあるかもしれません……」
とにかく、役もち以外の顔は見えない。
アリスは、とても時間を大切にする子だ。だから白ウサギ(ルビ:時間)に見つけられた。
じゃあ私は? このことを考えると、いつもきまって頭にもやがかかる。
――……まぁ、記憶改ざんされている可能性が大いにあるので考えたってしょうがないんですけど。
アリス(余所者)とかブラッド(確定元余所者)とかみたいに、私も家族を失ったのだろうか。あまり人に依存しないタイプだと自分では思っていたんですが、やはり現実に体験すると悲しくて時を止めたくなっちゃうものなんでしょうか???
――なんだか眠くなってきました、ふわぁあ。
「そんなことよりアリスですよね」
帽子屋屋敷を訪れていたのはほかでもない、アリスに気になるところがあったからだ。
アリス、最近様子がおかしい。私とティータイムをする時にも落ち込んだ表情を見せている。
――それとなく聞いてみたんですけど、私には言えないことっぽかったんですよね。
アリスは天才的に気が使えるプリティ少女、簡単にバラしてはくれません。
少しずつ探っていくしかありませんね、頑張りましょう!


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