貧乏余所者の生活費稼ぎ

時計塔でノートの整理をしている。
――えーっと、アリスは3時間帯前にハートの城を訪れて、ビバルディに会って……。
――情報提供者:ハートの城近くの店員(カフェ)。そのあと遊園地に向かったらしく……。
扉がバタンと開いてユリウスが帰ってきた。散らかった机を一瞥し、
「後できちんと片付けろ」
「はぁい。あ、ユリウス、何か欲しいものありますか?」
「……なんだ突然」
「プレゼントです。プレゼント」
なんでもいいですよぉ〜とメモ帳を開ける。ふふ、良い子なのでこういう……うーん……露骨な好感度上げをですね!!! クリエンで学んだ札束殴りです。
「待て、その金はどこから出るんだ? また盗むのか」
訝し気に聞いてくるので私は立ち上がりぐいんと胸をそらした。
「へっへーん、です! 稼ぎました!」
「お前、まさか白ウサギから……」
ユリウスが驚愕の表情を見せる。レア〜〜〜。スクショスクショ。
やると言ったらやる女、ゆりです(ぴかーん!)。
二つのピースをきらきらさせるのをみたユリウスは呆れた表情で荷物を机に置いた。おっ、食料だー! やったー!
「完全出来高制なので日々精進していきます。ちなみにこの前の地図では……」
もらったお金(ちょっと使ったけどほぼ全額)を見せるとユリウスの顔が引きつった。
「白ウサギも必死だな……」
「とりあえず食いつないで行けそうな感じなので、謝罪とこれまでの生活費の御礼もかねてなにかプレゼントしたいのですが何がいいですか? アリスの情報は非売品なので売れませんがそれ以外ならなんでも」
「おい、非売品は矛盾……。はぁ……必要ない」
「むーじゃあ私の独断と偏見で買ってきますよ、いいんですね!? 面白い形の実用性のないコーヒー用具とか、面白い香りのやばめキワモノ豆とかが棚に並びますよ!? 浸食されますよ!? キッチンに私の趣味のふぁんしぃ且つふぁんたじっくな魑魅魍魎が並びますが!?」
「落ち着け」
ユリウスがコーヒー用の牛乳を私に出してくる。
「おいちい」
なんでも食べ物で釣れると思ってるんですか。大当たりですよ。おいしい牛乳です。
おとなしく牛乳を飲んでいるとバァン! と扉が開いた。
「うげ」
「やぁゆり、城ぶりだな!」
赤い騎士さんです。今日も爽やか、キラキラ大晴天でございますね!
「すっかり時計塔に馴染んでるな、なんだかキノコみたいだ」
「ダブルで失礼ですよ。キノコに似ている私とキノコが似合う時計塔と!!!」
そうやって親睦を深めています(?)とユリウスに制止された。
いつものようにエースは袋をユリウスに渡すと、椅子に座った。
あ、待ってください、まだノート類片付けてな……。
「これ、何? もしかして、それがペーターさんへの用事?」
察しが良すぎる。さすがは騎士様。でも渡すわけにはいきませんので瞬発力でノートを机から床にたたきつけてその上にどっかりと座る。完全防備。
「企業秘密です」
「えー残念。ペーターさんと何話してたの?」
「アリスの話です」
「それは知ってるよ。だから気になるんだ、ほらアリスって可愛いからさ」
私が笑顔になった。心の底から完全同意と首を縦に振る。
――機嫌を取って口を滑らせようという作戦ですね!?
「機嫌は誠に良いのですが口は滑らせません、その手には乗りませんよエース!」
エースは肩をすくめて、うーんと考えるそぶりを見せた。
渡しませんからね、絶対ここから動きませんから!
「……そういえばさ、この前アリスに時計塔の近くで会って」
「いつですか!? あっ!?」
ちょろい私は一瞬でノートを出してしまいました!!!
エース、私のことを理解しすぎている。君は理解ができるフレンズなんだね!?
「返してください個人情報です! 侵してはならないプライバシーですよ!!!」
エースは爽やかに笑いながらぱらぱらとノートを見る。
取り返そうとしたが、背の高さの関係で全然とれない。ぴょんぴょん!!! 本当に駄目ですってばエース!!!
「えー? あっ俺のこと書いてある、なになに? 『13時間帯前 エース ハートの城の庭にて――』」
「やめておけ」
エースからノートを取り上げ、返してくれる。
ユリウスがそういうなら、と彼はあっさり引き下がった。
「ありがとうございました。しゅき」
助けてくれたユリウスのコートを掴む。むぎゅ。
「あっははは、仲良しだな。嫉妬しちゃうぜ」
「うぐっ……ご、ごめんなのだ、ぶ、ぶたないで……ぶたないでほしいのだ、えぐえぐ」
へけっ。
「エースさん、先ほどのお話ですがもう一度お願いできますか、誰とどこで」
「嘘だよ」
「フェイクニュース!?!?!?」
ぐすん。アップ&ダウン、だめ、ぜったい。
「やはり信頼できないのですね真っ赤っ赤の騎士さんは……心を許そうとした私が馬鹿でした」
「傷つくなぁ」
エースがこちらに近寄ってくるので、ずりずりと距離を取る。そのあとあっけなく捕獲されました。
「ぎゃああぁぁぁ!?!?!?」
あばばばば!!!! 怖い怖い怖い!!!!! 痛い痛い痛い(腕を完全に固められている)!!! エースもしかしなくても怒ってますね!?
ごめんなさい、どうしても怖くてあなたと距離を置いてしまうんです。
「何が怖いの? 剣?」
いや剣も怖いですけどね。かなりこう、武器が見える方なので。双子よりはマシですけど。
でもエースの本当に怖いところは……。
「晴天に吸い込まれて……崖からおちて……鶏が……汽車が……城からも落ちて……(うわごと)」
雲のない青空を見るたびに背筋が凍る身のことも考えてほしいです。責任取ってアリスと幸せにな! エスアリありがとうございました。アリスかわいいですね。錯乱。
「そろそろ放してやれ」
ユリウスの声にエースは手を放す。
――あ〜〜〜痛い……余韻で痛いです……。
逃げてばっかりだとダメですね。怖くても好感度を上げなければフレンドにはなれないのです。エースともがんばって交流しないと命の危険がある……。
人生の難しさを実感した昼だった。


[ 35/39 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -