貧乏余所者の生活費稼ぎ

「で、アリスを一緒に追い掛け回す仲になりそうだと」
「はい! なんとか最難関ペーターさんともうまくやって行けそうです」
「だから今日はこんなのんびりとした景色にしたのか?」
夢の中に某テーマパークのとーぅーんな街を出現させています。無法地帯なのでどこによじ登ろうと怒られません! 現実の世界を生きる良き人間さんたちは、きちんとマナーを守って蠅になりましょうね。
「まぁたまにはゆっくりとした時間も必要かなと思いまして」
――私はアスレチックしてますけどね。
あっ、ここから屋根にのぼれそう……のぼれ……。うぐぐぐ。
「毎回こういう夢だと助かるんだがな」
踏み台を出してなんとか屋根に上った。
――わ〜〜〜はっぴぃです!!! みっきまーすみっきまーすみっきみっきます!
悪いことするとワクワクしますね! 次はなんかそういうデンジャラスな夢にしましょうか。ゴーカートで爆走するのとか楽しそうじゃありません? あ、遊園地で出来ちゃう。
「何か悩み事とかはないか?」
「特に何もないです。あ、このまえ電話持ち歩こうとしたらユリウスに怒られました」
「電話を? それはまたどうして」
私は「図解! 携帯電話のヒミツ」のようなイメージ画像を頭の中に思い浮かべた。
――こんなフォルムで……機能が……。
「携帯電話? それは便利だな」
楽ですねぇこの意思疎通方法。欲しい特殊能力ナンバーワン。
「でもナイトメアにはあんまりお勧めしませんね。塔の職員から四六時中かかってくると思うんで」
「それは嫌だ……」
現実でも緑色の通知に悩まされている人いますものね。私とか。
通知音鳴るとスマホぶん投げたくなります。
「それにしてもいつにも増してハイテンションだな」
「この前アリスとお話してた時に仕入れた情報なんですけど、さすがに明言はしなかったものの、アリスがブラッドにあーんなことやそーんなことをされてしまっているみたいなんです! 私は幸せなわけですよ。誠に順調です」
「……」
ナイトメアの顔がさっと赤くなって徐々に青ざめていくのが見て取れた。
――人の顔色ってこんなに露骨に変わっていいものなんですかね!?
生命の危機を感じる色である。まぁ、人(ホモサピエンスサピエンス)じゃないから大丈夫なんです……? 時間なので……夢魔なので……?
「アッさては、アリスに生映像見させられましたね!?!? かわいそうすぎますご愁傷さまで〜す、みんなの心のパトロールお疲れ様で〜す」
「なんで楽しそうなんだっ」
「めちゃめちゃ楽しいです、性格が悪いので人が困っているとワクワクするのです」
人の不幸は蜜の味。シャーデンフロイデシャーデンフロイデ!
「吐きそう……」
「大丈夫ですか!?」
私はバケツを彼の前に出した。ででにーらしくファンシィな可愛らしいやつを。
「忘れたいときは『忘れよう』と思うと青い象になりますからね。他のことをするのが一番です、私とお話ししましょう。違う話題にするので」
私は屋根から降り、彼が居るパラソル椅子の近くに座った。
「うーん、ではペーターさんとの契約の詳細について! 私はまだこの世界の物価がよく分かってないのでもしやぼったくられる(?)かもと思ってたんですけど、なんだか私から見てももらいすぎな気がするんですよね。で、このお金の使い道なんですけど大きく分けて三つなんですよ。一つは……」
時間はどんどん過ぎていく。


アリスが前の時間帯に遊園地に居たという情報をつかんで、とことこと遊園地にやって参りました! いやーにぎやかにぎやか、大繁盛ですね!
「ゴーランドさんっ!」
遊園地の主が歩いているのを見つけて駆け寄る。
おう、と笑う彼。
「うちの猫とよく遊んでもらってるみたいで……」
「いえーこちらこそいつも遊園地で遊ばせていただいて……」
挨拶終了。ここまでテンプレ、井戸端会議開始。ごーん。
「ゴーランドさんはここで何を?」
「散歩だ。ちょっと曲のインスピレーションを求めてだな」
「へぇ! 素敵なものは見つかりましたか?」
「いや、まだだ。もうちょっと歩くか……。ゆりは何してるんだ?」
「私も散歩です、ご一緒してもいいですか?」
 実はまだ私ゴーランドさんの音楽拝聴したことないんです。どれだけひどいのか体感したいのでここらへんで聞かせてもらいたいところである。
――ただ「聞かせてください!」とか言うと、もし耐えられなかった場合が怖いんですよね。
――確実に“ファン”として囲われる未来が見える……。
それとな〜く音楽聞かせてくださらないかしら……ともやもやしながら遊園地の端を一緒に散歩する。
「私結構遊園地来てるんですけど、ゴーランドさんとはあんまり会いませんよね」
「まぁ、奥にいることが多いからな。あんたはいつもアトラクションで遊んでいるだろ」
ゴーランドさんからアリスの情報を聞き出しつつ雑談をしている。
――普通の人だなぁ……。ほんとに普通の雑談だなぁ……。
ほんわかしますね。流石癒し枠(?)。
名前のことさえ持ち出さなければこの世界でいちばん温和で常識のある素敵な人だ。
「時計屋とはうまくいっているか」
「はい、なんとか追い出されずに済んでいます」
ゴーランドはまたまた〜と私を小突いてくる。なんですか???
「時計屋が幼いとはいえ女の子を出入りさせてるんだぜ〜気になるだろ」
「幼い!? 私幼くはないですよ!?」
――……あれ? 私、何歳でしたっけ。
うーんと考え込んでしまう。
「まぁぱっと見だけじゃまるっきりの子供だしな」
まじですか。うそぉ。子供かぁ。
永遠の中二病なので中学生くらいだと嬉しいですね。
「時計屋はそういう趣味があったのかって噂が立ってるぜ?」
にやにやしながら言うゴーランドは確実に楽しんでいて、あ〜ゴーランドって感じがします。すごいですね。
「家主にロリコンの汚名を着せているのはものすごくいただけないですね……申し訳がない……」
おそらくゲームではロリコンは伏字ですよね? ここではがっつり出しますごめんなさい。バツを打ち込むのが面倒なので……。
「ですが面白い話はないです」
「そうか、なにもないか。残念だな」
まじで何もない。そもそもめちゃめちゃ歩き回っているので、寝に帰るみたいな位置づけなんですよね……。超ブラック企業入社一年目みたいな家の使い方してます。
「おっ、曲が降って……」
突然ゴーランドが足を止め、なにやら手を動かし始めた。
――わくわく!
――それにしても何にインスパイアされたんでしょうか。
目の前にあるのは木である。タイトルは「樹に捧ぐ」とかだろうか。
ゴーランドが音を取り始める。全く取れていないでしょうね……しらんけど……。
「ふんふん、ふ〜ん」
遊園地の客がゴーランドから距離をとるのがわかる。めちゃくちゃ目立ってますね。
私は覚悟を決めてその場で踏ん張りました!
「ふふふ〜んん〜〜ふんふん〜〜〜」
――ぞわぁ。
――ぞわぞわ……っ。
曲(?)が出来上がっていくごとに寒気がする。凄い。
直観的にやばい。あの、「音痴の友人のカラオケ耐えれるからいけるやろwww」とかそんなレベルじゃない。ここまで不協和音を作れるのは才能である。
不協和音はその深度を増していく。地面が振動し、空気が割れ、その地獄の波形は鼓膜へぬらりと入り込み――
――あ、なんだか……頭痛が……して……。
ここから記憶がない。


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