貧乏余所者の生活費稼ぎ

「これはお手製の地図です。初めてなので試作ということでお願いします。今後より分かりやすく、より正確になるよう精進します」
「……こちら側への要求は?」
「お金ください! 言い値で良いので」
「彼女を金儲けに使うんですか?」
「払う時点で結構同罪なので見逃してください」
私だってだいちゅきちゅきちゅきな人を利用するのは大変心苦しいのですが、需要がなければ供給もないのでそういうことです。そういうことにしておいてくれると助かります。
「私はペーターさんにお渡ししなくても自分のためにやりますしね。ペーターさんはアリスの情報を知れる、私は生活費の心配をしなくて済む。ウィンウィンの塊ですよ。……アリスにさえバレなければ」
これが大事。ばれなきゃ犯罪じゃありませんけど、ばれれば犯罪です。本人が嫌な思いをすることだけは、私はもちろん、ペーターさんも避けたいはずだ。
「……」
ペーターさんがしばし悩んでいる。そして諦めたかのように地図を丸め、手に持った。
「お願いしますよ」
「イエスマイロード!」
握りしめたこぶしを左胸に。何かいろいろ混じった気がしますが気にしない。

ぽわんぽわんぽわんぽわ〜〜ん。(想像終わり)
「以上、華麗なる金稼ぎの方法でした。15時間帯後くらいに実行予定です!」
「お前という奴は……」
「これで猫糞しなくて済みますね!」
「……厄介なことにならないようにな」
ユリウスがため息をついた。
「ポカをやらかすように見えますか?」
「見えるから言っている」
「きゃうん」
きゃうん。
私が地味に傷ついていると、階段から足音が聞こえた。
――アリス!
私は手際よく地図を片付け、ドアのすぐ近くで待機した。
ドアが開かれた瞬間アリスに飛びつく。
「キャー! アリスおはようございます〜今日も可愛い! 天使!」
「驚かさないでよ」
押しのけられました。しゅん。
「待たせたわね、ゆり。ユリウスもお久しぶり」
挨拶を欠かさないアリス、可愛い子……!
「ああ」
ユリウスは興味なさそうに返事し、机へ再び戻ろうとしている。
そんなユリウスをにやにやしながら見つめる。
「……なんの視線だ」
「いいでしょ〜って顔です。これからアリスと共にカフェエに参るのですのよ。うらやましいでしょ〜って顔です。ふふん(ドヤ顔)」
「さっさと行ってこい」
手をひらひらとふり、追い出す動作。こら! ゆりちゃんはわんわんじゃないんですよ!
「えへへ、行ってきまーす!」
階段をぱたぱたと降りていく。そろそろ階段にも完全に慣れましたね。
「時計塔も、ゆりが居ると明るく見えるわね」
「明るく!? アイアム太陽系!? らんだば的な何か!?」
――陽キャに変身してしまったのですね主人公補正ですねなるほど。
――なろーに投稿するしかないです、タイトルは「転生したらパリピになった件」で。
「元の世界では陰キャ(自称)でしたよ」
「そんな風に見えないわ」
アリスの元の世界にも陰キャ/陽キャの概念あったんですね。やはり意外と現代日本寄りの世界なのでは……。っといけないいけない、アリスの元の世界まで風呂敷を広げると破綻する。
「猫かぶってたんですよ、みんなに馴染めるように」
普通でいないと社会からはじかれますからね。同調圧力に逆らわない女でした。……嘘ですよ? 適度に逆らってました! えっへん。
「まぁ、私も人のこと言えないわね」
アリスが目を細めたのを見て、私は胸がきゅんとなった。
「私、元の世界ではいい子だったの」
「今も良い子ですよ」
「良い子なんかじゃないわ」
本当にスーパープリティでキューティー、適度にカインドフルないい子なんですけど、本人はうじうじとした可愛らしい性格なのでここで押しまくるのは好感度的によろしくないですね。
真相エンドとかで垣間見た猫かぶりアリスも可愛いし、かといってこの世界の本音出ちゃってるアリスも可愛いし、正直何をしてても可愛いし……存在が可愛い……。
「……どんなアリスでも大好きです」
「ペーターみたいなこと言わないで」
割と本気でペーターさんとキャラ被りしてる気がする。
ペーターさんに似ているということはブラッドとも似ている(?)……ということは現在のブラッドルートは実質私ルート(?)……つまり私は今アリスに攻略されているということ(?)……。
「まことにハッピーなQ.E D.ですね! ありがとうございます!」
「何が???」
道は楽しくカフェへと続いていく。
アリスと会話のドッジボールをしていると、あっという間にお店に着いた。店構えからお洒落で、現実世界ではついぞ縁の無いだろう所だった。
――私もようやくカフェデビュですか、感慨深いですね。
――インス……ラムを始めないと! そしてハッシュタグで会話をするのです! あの文化一回触れてみたいな〜と思いつつアカウント作らないままでしたね……およ……。
席に着くとこれまたオシャンティーな制服を着た店員さんがメニューを持ってきてくれる。
私はジンジャーエールを(コーヒーばっかり飲んでると甘い刺激物が飲みたくなるんです)頼み、るんるんと店内を見渡す。
私とアリスの他に客が数組居る。依然としてその顔はぼやけたままだ。男か女かくらいは服装や体格でわかるが、どれだけ目を凝らしてもその顔の詳細にはたどり着けない。
アリスならわかるんでしょうか? と彼女を見ると、アリスは店の絵を見ているようだった。見ているようで見ていない。俗に言う、“ぼーっとしている”状態。
「アリス?」
「あっ、ごめんなさい」
ごまかすように微笑むアリスが可愛すぎて役無しの顔の事聞くの後回しにしたくなりました! 以上! 可愛いですね本当に!
「どうしたんですか? 素敵な小説を見つけて心がトリップしてますか?」
「そんなに感受性豊かじゃないわよ」
ゲームではなりにくいですけど、エスアリは摂取した後は基本体調崩しますよ……エースとカーティスナイル(アラビアン)だけは気を付けないと本気で熱が出る(実話)。あ、だめだカーティスナイルを思い出したら背筋がぴきぴきしてきました。ぴきぴきぴき。ぞわ。ちゃりーん。
「お待たせいたしました」
運ばれてきたのは豊かな香りのたっている紅茶。うーん、流石に香りだけじゃ種類はわからないですね。
「アリスったらすっかりブラッドに毒されていますね〜〜???」
にやにやとつついておく。
「コーヒーを飲んで、何かの拍子にばれたらと思うと怖くて」
「何かの拍子ですって! あれですね! 素敵ですね! 何の拍子でしょうね!?!? きっと私の想像もつかない素敵な物事が行わ」
「静かにして(大文字)」
その後楽しく恋バナ(?)と情報共有と雑談で楽しい時間を過ごしましたとさ。


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