貧乏余所者の生活費稼ぎ

机に大きな紙を広げて、そこに線を書き加えながら口を動かす。
「電話線があるのなら、ある程度の通信技術の発展はしているということですよね。どうにかして携帯電話を持ちたいのですが」
「……」
「時計塔を含む高い建物にアンテナをつけさせていただけたら、きっと実現不可能な夢ではないんですよ。きっと。アンテナって概念なので(?)」
ユリウスは時計の修理をしていてこちらに注意を払っていない様子である。
私は椅子に座って、話を続けた。
「ですから、私はさっきなけなしのお金をはたいて固定電話を買ってきたんですよ。今から開いて構造を勉強しようと思っています。私の世界とおんなじだったら良いんですけど」
「……ちょっと待て、その金は誰のものだ」
え、聞いていたんですか?
――ばれてしまっては仕様がありません。
「時計塔週辺をパトロールしていましたら、落ちていました! 俗にいうネコババです!」
「仮にも役人の前で、堂々と窃盗を宣言するやつがあるか!」
このお金でノート用の用具も買い揃えられて、悲しみから一転、快適なノートライフを送っている。
「大体お前はいつもいつも……本棚を散らかしたまま本屋に出かけて……「時間測り器を作ります!」と、妙な道具をたくさん作って……ついこの間は階段で倒れていて、わけを聞いたら『時計塔の階段の数を調べたくてかれこれ五往復しています』だのと抜かして……」
――耳が痛いです!
時間測り器は色々試してみた結果、砂時計に落ち着きました。砂時計は割と簡単に作れるので皆様もぜひ。はいこちら、1分(おそらく)、5分(おそらく)、10分(おそらく)の砂時計です。だいたいで良いので、私の脈拍で計算しました!
階段の件は実に面白いことが分かった。階段の数が上るたびに異なるのである。若干だけど。
――まさに階段の怪談。
「ふふっ」
自分で思いついたギャグが面白すぎて思わず笑ってしまった。
寒いとか言わんといてください。こちらとらなんでも解決してくれるキツネさんを読んで育ってきてるんですよ。そりゃ感性がオヤジになりますよ。
ユリウスがこちらをにらんでくる。
私はただ時計塔を冒険したり携帯電話を作ったりしたいだけなんですってばー。
そんなこんなで私は今、着々とこの世界の研究を進めていっている。
「あと前から思っていたがその紙は何に使っているんだ? 地図のようだが……同じものを2枚作ってどうする」
ユリウスが私の手元にある大きめの紙について問う。これはちょっと前に偉大なるユリウス様に買ってもらいました。
「これは、大事な大事な金の卵ですよユリウス。もう私が犯罪行為に手を染めずに済む救済のアイテムです」
私は一枚をユリウスの前に広げて置いた。
「これはこの国の略地図です。そしてこの点は……ターゲットの位置です!」
効果音:じゃじゃーん!
「私が地道に情報収集して集めたアリスあっ言っちゃった、違うんですターゲット、ターゲットの位置情報を、時系列ごとに整理し収めたものです。点の位置は目撃情報があったところ、確実な移動ルートは実線、推測は点線。仕事の時間も本人から聞きだしましたし、更に強力な情報源の……」
「わかった。ジョーカーに連絡しよう」
「警察ならどちらかというとエースでは?」
「あいつは欲しい時に連絡が取れないからな。私でもいいか、手を出せ」
「現行犯逮捕〜〜〜!?!? ダメです、現在時刻がないのでダメです!」
以上危ない(真相エンド的な危なさ)コントでした。ユリウス、私が監獄系に余所者にしては詳しいことを、あんまり突っ込んでこないのが逆に怖いんですよね。私の案内人の方から話がいっている……? 今度機嫌が良さそうなときに聞いてみます。
「で? その犯罪の証拠の、どこが金の卵なんだ?」
私は腰に手を当ててふんぞり返った。
「ふふん。いいでしょう聞かせて差し上げます。私の合理的かつワンダフルな計画を! まず、ハートの城へと出向きます……」
ぽわんぽわんぽわんぽわ〜〜ん。(想像)

まずハートの城に向かいます!
「こんにちは! ペーターさん居ますか?」
「おそらく執務室のほうにいらっしゃるかと」
「かしこまりました行って参ります!」
メイドさんの言葉に、私は城を駆け抜けて執務室に向かう。もうこの広い城も慣れたものである。
執務室の前に行くと兵士が多めに居る。その数は執務室にペーターさんだけではないことを意味していた。
「こんにちは〜! ペーターさんに会いに来たんですけど……ビバルディもいる感じです?」
「はい、エース様もいらっしゃいます」
「げ!?」
エースと顔を合わせるのはなるたけ避けたい。私の体調のために。
「……どうしましょう、出直そうか迷っています」
その時、ビバルディの声がドア越しに聞こえてきた。
「……ゆり、早く入ってこい」
「あっしつれいしま〜す」
秒で入った。渾身の笑みと共に入った。
「皆様こんにちは、みんなのアイドルゆりでーす」
3人揃うと緊張感が凄すぎる。いや一人(エース)緊張感のない顔はしてるけど。
「ゆり、ひどいじゃないか。俺が居るから帰ろうとしてただろ」
――なんでお城なのに扉が薄いアパートみたいな声の通り方するんですかねここ!? 役持ちパワーですか!?
「仲良くしようぜ、友達だろ」
こえぇ。笑顔が怖いのでやめてほしいです。
「すみませんでした これからたくさんなかよくしましょう(にっこり)」
「そうだよなーなかよく、仲良く(にっかり寄りのにっこり)」
「そのなかよくじゃないですぅ(タラちゃん声)」
――茶番は置いておいてですね!?
私は気を取り直してもふもふの方へと向き直る。
「今回はペーターさんにお話があって参りました」
ペーターさんは目を細めてこちらを見る。怖いです。不機嫌を隠せください。
「……なんですか?」
「アリスのことなんですけど」
一瞬の沈黙のあと、ペーターさんは持っていた書類を机に置いた。
「聞きましょう。陛下、席を外します」
「そういう時は普通、席を外してよろしいですか、と聞くのものじゃ」
「ペーターさんったら彼女のこととなるとおかしくなるよな」
まぁアリスは可愛いすぎるので仕方のないことです。私もおかしくなります。
ペーターさんと共に廊下を歩き、彼は人通りのすくないところで足を止める。
って廊下!? 一応客(余所者)応対なのですが、扱いひっど!! いいですけどね!
「で、彼女のことというのは」
はい、ここでセールス開始です。
「ペーターさん。最近、お忙しくないですか?」
「は?」
「合わない上司、頭の中が面白い同僚との執務に追われ、大切な方への隠密にすら見える献身的な後方警備、怠っていませんか?」
営業はトークが大事。相手のニーズに合わせたトークで、商品を見せる前にとことんまで購買意欲をそそる。商品は最後にそっと出す。
「役なしに任せようにも、なんとも手ごたえのない報告ばかりでイライラは募り……やはり城を爆破して彼女を追うべきか、なんて迷っていらっしゃらないですか!? けれど彼女を守るための社会的地位を手放すわけにはいかない……箱アリの最初でおっしゃられていた通りの板挟みですよね……およよよ、わかります。わかりますともその気持ち」
ここで、持っていた地図を開く! 効果音:ばばーん!
「そんなあなたにこちら!」
ペーターは紙を受け取った。賢い彼のブレインはその地図の意図するところを一瞬で察したようだった。
「全て解決できるんです。そう、この地図ならね!」
ゆっくりと視線をあげた彼と視線を合わせて、私はにっこり微笑んだ。
「共同戦線、組みませんか?」

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