ありすと!

早速おともだち(?)になったビバルディに、ペーターさんに挨拶をしたいことを相談してみる。
「ホワイトに? あやつに挨拶なぞ要らぬ」
「ですが私の命が危ないのですビバルディ。アリスのためにと称してなんでもしますからね、あのウサギさん」
「まぁ、あやつは最近様子がおかしいからな。わかった、わらわの前で挨拶の場を設けてやろう。あやつはもうすぐここに書類を届けに来るから、その時に挨拶をおし」
「あーーーりがとうございます! 命の恩人です!」
それにしても……ペタさんの最近様子がおかしいとは尊い。ペタアリは前提。天を拝んでおきましょう。ありがたやありがたや。
愛を得たペーターパイセンまじ尊いっす……仰げば尊し……っ!
「……何をしておる」
「気にしないであげて。きっとゆりなりの親愛の表し方なのよ」
流石の適応能力を発揮するアリスのナイスフォローに助けられ、ビバルディと仲良く談笑(情報引き出し)していると……。
「陛下、ホワイト様がいらっしゃいました」
――あああああぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁあ……!
私は情報を書き留めていたノートをばたんと風が起きる勢いで閉じ、無意味に服をはたく。
身だしなみをととのえているつもりなんです。ジャージなんでまったく意味ないんですけど。ほんと。
どきどき。どきどき。
ビバルディが私の方をちらりと見てくる。私は唇を結んで頷いた。
「失礼します」
ガチャリと扉が開かれ、白いお耳が見えた。
「陛下、追加の……ア、アリスゥゥゥっっっっ!!」
「うげ」
ペーターさんが手に持っている書類を早業で隣のメイドさんに押し付け、アリスに抱き着く。
――ペタアリペタアリペタアリペタアリぺタアry!
親の顔より見た展開ですね。幸せすぎて昇天まっしぐらです私。
「ああ、アリス! ようやく城に住むと決めてくれたんですね! とっても嬉しいです!! 早速素敵なお部屋を用意させます!! 城で一番大きくて、豪華で、隅々まで消毒の生き届いた……」
「誰もそんな事言ってないわよ」
もう幸せがキャパシティー超えてしまってただ口を開けたままその様子を見守っている私であった。
「私は帽子屋屋敷が良いの! 人の話を聞きなさいってば!」
――あーーーっっ可愛いーーーっ!!! マフィアの本拠地に居住地を決めるアリスかわーーーーーいいーーー!!!!!!!!!!
「ホワイト、書類を」
ビバルディが片眉を上げて言うと、しぶしぶペーターさんはアリスから離れる。
「……これが追加分です。サインをお願いします」
「ふん、まったく。どうしてわらわがこんなに仕事をせねばならぬのだ。不出来な部下を持つと苦労するわ」
そして初めて存在に気が付いたように、ペーターさんが私の方を見る。
「……あなたは」
ひぇっ。
「あ、ええと、こんにちは。初めまして。ゆりと言います。余所者です。時計塔に滞在してしていて、今ビバルディと楽しくお話を」
「あぁ、例の……」
自分の情報をつらつらと並び立てようとする私の言葉はさえぎられてしまった。
――え?
「不細工な顔ですね。それに愚鈍そうだ。僕の愛する人の百分の一にも及びません」
「アリスと比べると大抵の人が下ではありませんか?」
「大抵といわず、全てですね。アリス以上に素晴らしいものなんて存在しません」
「そうですよね〜〜〜!!! アリス可愛いですよね〜〜〜!!!」
嬉しい幸せハッピー!!! 幸せ!!! ペタアリは全ての前提!!!
思わず顔も思考も緩みまくったのだが、一つ引っかかる点が。
「……あの、例のって何のことですか?」
おそるおそる聞いてみる。
「知る必要の無いことです」
――怖いです!?!?
いきなり視線が鋭くなる。
「あまり僕に近づかないでください。思わず撃ち殺してしまいそうになりますので」
「ぴぇ……」
恐い。足ががたがたと震えてくる。
はっ! これが良く言われる殺気という奴ですか!
――初めまして! これからよろしくおねがいします!
殺気さんとはあんまり仲良くなりたくないけど、この物騒なワンダーワールドで生きていく以上無関係ではいられないと予想を立てて挨拶をしておく。
「ペーター、初対面の人に何て事言うの! 失礼にも程があるでしょう!」
「ああ、怖がらせてしまいましたか? すみません、あなたに向けての言葉ではありませんよ、アリス。むしろあなたならどんどんお近づきに」
「私がなりたくない」
バッサリと切り捨てるアリスマジカッケーっす!
「うう、いたいけなウサギをいじめるなんて……。僕、悲しくて泣いちゃいそうです」
「勝手に泣いとけ」
おそらく今のセリフ太字。可愛い。私、SAN値2D5の回復。
「行きましょう、ゆり」
アリスに手を引かれる。少し怒っている気がする。
――おそらくペーターさんの私への態度がお気に召さなかったんですよね。
うう、お二人の邪魔をしてしまっている気がします……。ごめんなさい……。
やっぱり私アリスの周りを取り巻く大気になりたいです。それか背後霊。
「ありがとう、ビバルディ。また来るわ」
「あぁ、またおいで」
女王陛下の美しい笑みに見守られて、私達はハートの城をあとにした。

「本当にごめんなさい……って私が謝るのもおかしいけど。ペーターが」
「いえ」
照れ隠し(フィルター越し)だとわかっていてもアリスがペーターさんを悪く言うのは聞いていてとても苦しい。
「ペーターさんとお会いできただけでも十分です。ありがとうございました」
「……」
アリスが何か言いたげな顔をしている。可愛い。
生垣をぬける。次はいよいよアリスの滞在地。
「そう言えばエースを忘れていたわ。知っている? 赤いロングコートを着てる……」
「はい、もうお会いしました」
「それなら大丈夫ね」
最後の領地、帽子屋屋敷に向かうアリスの足は心なしか踊っているような気がして、私も隣で全力スキップしたら怒られました。


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