待望の出会い

感動がようやく落ち着いたところで、有益な情報交換をしようとアリスに話しかける。
「それで、アリス。改めて質問なんですけれども」
「やめておけ、お前の質問はまだこいつには早い」
ユリウスが眉をひそめて忠告してくる。
「早いって何ですか早いって」
文句を言ってみたものの、何となくユリウスの言う意味は分かる。私の聞くことの中にはかなり……、そうかなり「きわどい」ものが含まれている。
きわどいってあれですよ!? 年齢制限的なやつじゃなくて、監獄系のきわどさですからね!! 名誉のために否定させてくださいね!
「その件なら大丈夫ですよ。できる範囲内で地雷を踏まずにタップダンスしてみせます」
「頼むから地雷原は普通に歩いてくれ……。いや違った、近づくな」
「……何の話をしているのよ」
アリスが呆れたようにこちらを見つめているので、にへら、と笑っておいた。
さて、真相に触れないレベルの私の知りたいことといえば……。
「とりあえず身長座高体重足のサイズいいえいいえこれじゃ足りませんタ〇タ持ってきますんで体脂肪率筋肉量基礎代」
「黙れ」
「いっっっ!?!?」
ユリウス、突っ込みの言葉を持たないからってマジで頭に手刀突っ込んでくるのやめてください。痛いです。

「……ごほん、改めてですね」
「何回改めれば気が済むのよ」
「いやぁ私がすぐに頭がパァンするのはアリスの可愛さ故なので、気にしないでいただきたく思います」
「はぁ、余所者って言ってもこの世界の人たちとあんまり変わらないわね……」
うなだれるアリスも可愛くて、
「私、まだこの世界でここ、時計塔しか来たことが無いんです。アリスはもう他の皆様方へご挨拶に行きましたか?」
あらそうなの? とアリスは少し驚いと表情をする。
「ええ、役持ちには全員会ってきたわ。あれ? でもあなたさっきペーターがどうとか」
「私ほんとにこの世界のことわからなくてぇ!! 役持ちって何ですかポーカー用語ですか」
自分でポーカーを出しといて胸が苦しくなる現象が起きました。
すっとぼけた私に、役持ちって言うのはね……と素直に解説してくれてるアリスがもう可愛すぎてほおが緩んで涙腺まで緩んでくる。役持ち役なしの話が終わって、各領土の説明に入ってしばらくしたところで尊さが限界を迎えてぼろぼろ涙がこぼれる。
「どっ、どうしたの」
「えぐえぐ、せ、説明を続けてください……ちょっと常識とはずれたこと過ぎて……しんじられなくて……っ」
と、すらすら嘘をついておりますが、必要悪なんで閻魔大王さんそこんとこよろしくお願いします。
見事『常識が通じない世界にやってきてしまった恐怖で泣いてしまうか弱いプリティな女の子』になりきるとこが出来、そんな状態のこちらを気遣いながら説明を続けてくれるアリスが可愛くて可愛くてもう私どうればいいんでしょう。
ユリウスが冷ややかな目と、アリスに聞こえないような小さな声で
「性格が悪いぞ」
とつぶやいてきた。そりゃお見通しですよ。彼は私がここのことをよく知っていることを知っている。
「嫌ですねえ、私この世界に来たばっかりの余所者ですから何も知らないのは普通ですよぉ」
泣き顔の表情を変えないまま、できる限りの鬱陶しさを込めた声色で呟き返すとユリウスがため息をついた。えっまってください今「後で殴る」って聞こえたんですけど!?
「……わかった? 私もまだ全然わからないんだけれど、取り敢えずこんなものかしら」
アリスが彼女の今得ている情報をすべて話してくれた。これでバッドエンド回避、およびクローバーの国に行こう計画がたてられるというものです。
「素晴らしいですアリス! 流石アリス! 天才! マーヴェラス!!」
「あ、うん、ありがとう」
アリスが苦笑と共にありがとうと言ってくれましたはぁ可愛い可愛い。
あともう一押し、私がこの時計塔に引きこもっていた理由は今このためにあるのだ。なんとしてでもアリスと共に役持ち(主にペーターさん)への挨拶に向かわねばならない。
「でもその役持ちさんというのはえらく物騒な方たちなんですねぇ。私、会うの怖いです」
でもきっと、アリスは可愛いし優しいし可愛いし賢いし、可愛いし、なんてったって。
「確かにそうね、最初は確かに怖かった……というか変な人ばっかりで驚いたけど、話してみると悪い人たちじゃないのよ? あ、そうだ。私が紹介してあげましょうか?」
私は彼女の性格をかなり知っている。女性には甘めだってことも、もちろん。
――女性に生まれただけで勝ち組ですねわかります。
「よろしいんですか! それなら安心です!」

「……おまえ最初からこれが目的だっただろう」
「さ――何のことかまーーーったくわかりませんねぇ」
アリスが帰った後、またもやユリウスの視線が突き刺さってくる。
「その語尾を微妙に伸ばしてしゃべるのをやめろ。いつも以上に殴りたくなる」
「いつも殴りたいんですか!? ドメスティックなバイオレンスですか!? でも残念ながらドメスティックではないので塔内、インタワーバイオレンスですか!?」
「なんで家族という属性が塔という場所に置き換わったんだ……」
私は愛用のメモ帳を開く。
「えーっと、忘れないようにメモしとかないとですね」
――最初の方は考察で埋まっちゃってるので、最後のページに書いておきましょう。
「『5時間帯後、時計塔広場』、『WITHアリス(ハートの絵文字)(ハートの絵文字)(ハートの絵文字)(ハートの絵文字)(ハートの絵文字)(ハートの絵文』」
「どれだけハートを書くんだ」
「愛が……っ! 溢れ出て……っ! ああっ駄目です! 手が震えて! 私の封印されし右手がァァァァァ!!!」
無視された。
「不便ですね。5時間帯後って書いてもいつなのかはっきりしないので難しいです」
「慣れだろうな」
「慣れでしょうね。早く慣れたいです」
「慣れるな。さっさと帰ってくれ」
一歩ずつ、一歩ずつ、馴染んでいけると良いですね。この素晴らしいワンダーワールドに。
「だから帰れと言っているだろう」


[ 15/39 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -