待望の出会い

エースは先ほど時計塔から出て行ったところである。
あの方向音痴のことだから、間違えて戻ってきたのかもしれないが……。
――なにか、違う……?
「……もしや」
椅子から立ち上がり、扉の前まで移動する。
この国に来てから経過した時間(帯)、足音の軽さ、そして何より私の第六感。
すべてが、『彼女だ』と言っている。
扉が開いてもぶつからないギリギリまで寄って、客の来訪を待つ。
足音が近づき、止まる。そして扉がゆっくりと開き……。
「ユリウス? 居る?」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぐぼえぇっ」
景気よく扉に激突してしまった。その衝撃で、扉は閉まった。
ユリウスが私の腕をつかんで扉から離す。何するんですか、と叫ぼうとすると口を手で覆われた。
「ユ、ユリウス? あの……入って良いかしら」
「ああ、狂犬は捕まえた」
――ユリウス、けっこう力強いですね!! は〜な〜し〜て〜く〜だ〜さ〜い!!
「おじゃまします……」
ためらいがちに扉が再び開き、彼女が姿を見せる。
「もごもご……! もごご!! もご!(アリスアリス! アリスですね! アリス!!)」
興奮を抑えきれずに足をじたばたさせる私を、無視して二人の会話は続いていく。
「どうしてここに来た、忘れ物か?」
「いいえ、あなたにお礼を言いに来たの」
「もごごご(くそかわえぇ)……!?!?」
「お礼?」
「もごご(アリス可愛い)!!」
「そう、お礼」
「もごもごご、もご(そもそもアリスの可愛さはですね)」
「……ねぇ、この人は誰?」
「ただの変態だ。気にしなくて良い」
しょぼん。変態じゃないです、ただの一介のアリスファンです……。
上目遣いでうるうるとユリウスを見ると、
「……叫ぶなよ?」
そう言って口の手を外してくれた。
「初めまして! 私、ゆりと申します! アリスさんにお会いできて恐悦至極にございます!」
アリスの手を取ってぶんぶん握手する。わ〜っ、手がちっちゃくて華奢で暖かぁい!
やっぱり乙女ゲーの主人公はこうでなくっちゃですね!!
「え、ええと、アリス=リデルです……」
声もかわえぇですこれこそまさに天使……この世に舞い降りた天使アリス=リデル……!!!
「私ずっとアリスさんの大ファンで! 命を投げ出しても惜しくないほどあなたが好きです!」
「……あ、うん」
「好きです!」
「ありがとう……?」
「大好きでぶっ!?」
「うるさい」
ユリウスに手剣を落とされた。涙目で痛む頭をさすっていると、アリスが私に話しかけてきてくれる。
「あなたは此処に住んでいるの?」
「はい、居候させてもらっています」
「へぇ……」
アリスさんはじろりとユリウスの顔を見る。
「何だ」
「何でもないわよ。ただ、そうなんだって思っただけ」
アリスは、少しのからかいを含んだ声で言った。
――あ〜わかりました『私は追い出したのはこの子がいるからなのね……』とかなんとか勘違いをしているんですねアリス……。
可愛い、そんなところも可愛いですアリス……。
「ええと、ゆり?」
「はい!」
「あなたは何をしてるの?」
あ、これは誤解を解くチャンスですね。
「私余所者でして」
「え」
「余所者なのです。アリスさんと同じく」
「ええ!? そうなの?」
びっくりした顔のアリス。ああもう可愛い、語彙力が可愛いしかなくなってきました。可愛いです。
「……事実だ。おそらくお前と同じときにこっちへ来たんだろう」
「あなたも、あの変態ウサギに連れられて来たってこと?」
「それは無いですね。ペーターさんが私に執着する理由が分かりません」
アリスは眉をひそめた。
「私だって分からないわよ」
「いえ、アリスさんはあります。とっても素晴らしい理由が」
ペタアリ万歳。ペタアリは全ての根底、全ての土台。
「理由って何よ」
「それはちょっと……」
――こんなところでネタばらしなんて、バッドエンド直行です。
死んでも教えませんとも、ええ。
「知ってるなら教えなさいよ」
「ま、前向きに検討します。善処します。また次の機会に……」
――答えは全部『いいえ』です!!
日本人特有の断りの返事を連ねてみたのだが、アリスには通用しなかった。
「教えなさいってば!」
アリスが詰め寄ってくる。
――めっちゃ良い香りです! 女の子って最高!
「……というか、ユリウスもユリウスよ!」
「は?」
いきなり自分に向けられた矛先に、ユリウスが目を細める。
「私が此処に来たとき追い返したくせに、どうしてゆりは居候させてるのよっ」
「それは……押されまくったというかなんというか」
「私が無理に頼み込んだんです。ユリウスは決してアリスさんの事が嫌いなわけではありません。むしろ大好ぎゃ!」
「人の感情を勝手に捏造するな」
再度手刀が降ってきました。うう、痛いです。さすさす。
「あんまり女の子に手を上げるのは良くないと思うわよ」
「アリスさん優しい……!」
手をお祈りのポーズにし、きらきらしたお目目でアリスを見ると、彼女は小さくため息をついた。
「あなた、ユリウスは呼び捨てなんでしょ? 私もアリスでいいわよ」
「そうですか? ではアリスと」
「わーい! アリスアリスーー!!」
好きの気持ちが抑えきれなくなり、思わずぎゅううっとアリスに抱き着く。
「ぐえっ」
――うめき声すらも可愛いとかアリスって本当……!! ほんと!!
「あー可愛い、私は幸せすぎて今日死ぬのかもしれません……」
「だれも止めない。逝ってこい」
「その前に私が窒息死するわよっ」
「こんな暑苦しいのはペーターで十分なのに〜」
アリスがうんざりとつぶやいた。ああ、可愛いです。

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