親愛を深めましょう

知っている。
私はこの空間を知っている。
「やあ、ゆり」
―……。
――……実際で見ると余計変な服ですね。
「へ、変な服っ!? 出合って一番初めの言葉がそれって酷くないか!?」
――眼帯も変。どうしよう、変な人に見えますね……。
あっ、変な人か。
「違う!」
別に心の声が口から出てくるってわけじゃなさそうですね。
ハトアリの一番初めに夢へ来たときの描写を見るとそうかもしれないと思っていたが、どうやら大丈夫そうですね。
具体的に言うと『思うだけにとどめておくことが出来ないらしい』、とアリスは言っていました。
ハートの国ならほとんどシナリオ覚えているので間違いありません。
「……」
「……」
――とりあえず、挨拶からですね。
「初めまして、ゆりと申します。これからどうぞよろしくお願いします、内藤さん」
「誰!?」
銀髪の男性が大きな声をあげる。
「では、ジョンさん」
「だから誰!?」
「ミノガさん」
「勝手に成長させるなっ!」
――なにが『名前はない。どういうふうにでも、好きなように呼ぶといいよ』ですか、思いっきり駄目じゃないですか。
「それは君に言ったわけじゃないだろう……えー、コホン」
夢魔はすっと私のほうに飛んできた。
――やべぇです。この人本当に飛んでやがります。
私もできるのか後で試してみなくてはいけませんね。
「知っているとは思うが、夢魔のナイトメアだ。できればナイトメアと呼んでほしい」
「はい、了解です。私もゆりでお願いします」
しかしやはり変な服である。どうして肩を出す必要があるんですかね?
一回聞いてみたかったんですよ、『それかっこいいと思ってきているんですか?』と。
夢の中に引きこもる自称夢魔……これ結構痛いですね……。
誰かに、人をくるめるくらい大きな絆創膏を持ってきてもらわねばいけませんね。
――痛い痛いです〜お母さ〜ん、ここに頭怪我したひとがいますよ〜!!
はっ、夢の中なら超巨大絆創膏とか具現化できるのでは。
「……あー聞こえない聞こえない」
ナイトメアは青い顔をして遠い目をしていた。
ああ、顔色悪いですね。確かに死にそうです。っと、会話をせねばなりませんね。
とはいってもアリスのことくらいしか話すことも見つからない。
「アリスにはもう会いましたか?」
「ああ、彼女の方が先に眠ったからね」
私も眠ってはいましたけどね。きっとアリスのほうで忙しかったのでしょう。
しかしアリスに会ったとなると、オープニングも中盤に差し迫っているのでしょうか。
――では、アリスはそろそろ時計塔に挨拶に来てもいいのでは?
――聞きたいことがありすぎます! ああ、でも……。
「ここにはペンもノートもないですね。これでは情報収集ができません」
すぐ忘れちゃうので。自分の記憶能力を信用していないんですよ。
好きなものなら覚えておけますが、やはり細かな部分まで確実な記録が欲しい。
「アリス、可愛かったですか?」
「おや、まだ会っていなかったのか?」
「はい、こちらに来てからずっと時計塔にいます。アリスが来るのを待っているんです」
「なるほど、確かにそれが一番安全かもしれないな」
ナイトメアはそう言って薄く微笑んだ。
そうなんですよ、うっかり撃ち殺されたらたまりませんからね。
でも、あれ? そういえば……。
「私ってこっちの世界で死んだら死にます?」
「情報収集はしないんじゃなかったのかい?」
「うう……じゃあ表の世界で会った時に聞きます……」
猶も雑談を続ける。ワンダーワールドのここが凄いとか、ここが疑問だとか……。
――話すと頭の中が整理されるからいいですよね!
でもここは夢の中。記憶整理のための現象が夢である説が本当なら、今まさに私は自分でその行動をしているというわけですかね。興味深いです。
少し考え込んでいると、ナイトメアが私に近づいてきた。
「……どうして、泣いているんだ?」
「えっ」
慌てて頬を触ると、かなりの量の涙が手が濡らした。
――何でですか!? 泣くようなことを話していないですし……。
眉をひそめてこっちを見るナイトメアに、ゆっくりと答える。
「……感動したんじゃないでしょうか。エース、ユリウスに続いての役持ちさんとの交流に」
苦しい理由なのはわかっているが、自分にも原因がわからないのだ。
「ほんと、どうしちゃったんでしょうか」
そうしている間にも、涙がボロボロ頬を伝う。いったん自覚してしまえば、気になってしょうがない。ぬぐってもぬぐっても、止まらない。
「もう時間だね、目覚めなくてはいけない」
ナイトメアが優しくつぶやく。
――結局涙の原因なんだったんですか……?
私はふわりと浮く感覚に身をゆだねる。おそらくこれが、目覚める前兆だろう。
「ゆり」
ナイトメアが私の名前を呼ぶ。
「ワンダーランドを楽しんで」
私はきょとんとした後、笑顔を作った。

「もちろんです」


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