トンネルではなく

皆さんこんにちは。
なんやかんやとユリウスさんのところにお世話になることになりました余所者のゆりでございます。
この世界にきて体感3日ほど経ちました(三回寝たから)。
ちなみに今のところナイトメアさんとお会いしておりません。
忘れているだけじゃないことを切に願っています。
この2日間というもの、塔の電気とか電話とかの設備やら、建物の構造やら、ユリウスさんの私物やらを全力で調べ上げており、大変ユリウスさんのご不興を買っております。
「で? 今回は何をやらかすつもりなんだ?」
「時計塔周辺の市場調査に行って参ります! つきましてはお金の単位とおおまかな物価を教えてください!」
「よし、そのまま帰ってこなくていい」
「ひどくありませんか!?」
ユリウスさんはツンデレキャラなので、なかなか私に有益な情報を落としてくれません。
「時計塔内はとりあえず満足したので、少しずつ活動範囲を広げていこうかと思っていたのですが……」
ちらりとユリウスさんをみる。
「好きにすればいいだろう。私は止めていない」
「帰ってきたら時計塔に入れなくなってたりはしませんよね」
なんてったってユリウスさんは領主なのである。
余所者一人、時計塔から追い出すなんてわけないのである。
「どうだろうな。自分の行動をよく振り返ってみろ」
ユリウスさんは冷たく言う。
私はにっこりと笑って、
「ユリウスさんはとても優しいので大丈夫ですよね。
ではいってきます」
ばたんと部屋と廊下を分断する。
ドアの向こうで何やら言っているような気がするが聞こえません。
保険は掛けましたし、出かけますか。
いざ、外の世界へ!

長い長い階段を抜けると、そこは不思議の国であった。
顔のない人々が行きかい、時間帯がランダムに訪れ、ルールに縛られたワンダーワールド。
テンションの高まりを抑えきれなくなった私は、とりあえずホッピングした。
「きゃほーーーっ!!」
いきなり奇声をあげた私を奇異の目で見る人もいますが、だって、叫ばずにはいられないんですから!
――なるほど顔がないですね! 表情が読み取りにくいといいますか。
私はすっとユリウスからもらった(勝手に取ってきた)紙とペンを取り出す。
――『役なしの顔について』
――『視覚的に見えないわけではなく、ただ印象が薄いだけ。表情の読み取りが難しい』
通り過ぎる人の顔について、思ったこと、考えたことを素直に書いていく。
ある程度紙が埋まったところで、私は時計塔広場にあるお店を見て回った。
どこかに地図とかあると有難いんですが、やはり引っ越しで地殻変動してしまうから、商売的に成り立たないんでしょうか……。
見つけたら是非お買い上げしたいです。
そこまで考え、ふと私は思い出した。
私がいま一文無しであることを。
――何か収入減を見つけなくてはいけませんね。
アリスはユリウスさんの仕事を手伝うことで、収入を得ていた。
――やっぱりユリウスさんのお手伝いが手っ取り早いですけれど……。
働くということはその分、調査に充てられる時間が少なくなるわけである。
それは少し考えものであった。
――どこかにいい仕事落ちていませんかね……。
――アリスをストーカーしたらお給料とか……。
――……、あ。
なんていいことを思いついてしまったのでしょうか!
私は思わずにやりと笑い、頭に浮かんだ計画を実行するときを待ちのぞんだ。

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