誰得ですか?

「余所者が二人も……空間の歪みの影響がどうなるのか……」
ユリウスさんは眉間にしわを寄せ、ため息をつく。
というか私は余所者で合っているのですね。心臓もちゃんと心臓ですし。
――空間の歪み……。
今とっても重要なことを聞きました。
「余所者が入ってこれるようにするには、空間を歪ませないといけないんですね。ふむふむ」
――忘れないようにメモしないとですね。
机に落ちていた紙と、ユリウスさんの机にあったペンをとり、『空間の歪み』、『それについての影響』と書き込んだ。
――元の世界でも、こんな風にメモを取りながらゲームしていましたっけ。
アリスの世界の仕組みを考察するのが趣味だった私は、毎日のようにPSPでアリスをプレイしていた。
キャラのセリフの中で考察に使える部分を書き出し、後でそれをじっくり考える。
そして考えたものをノートに文章と図でまとめて、自分で見返し矛盾がないかどうか調べる。
ただの自己満足と言ってしまえばそれまでだが、それが私の生きがいだった。
――それに……。
――……それに? 私何考えていましたっけ?
元の世界のことがなんだか懐かしく……って、まだこっちに来てから体感一日もたってませんね。
――空間の歪みって、何が起きるんでしょうか?
考えるものの、ツイアリ、クレイジーストームでの出来事関連しか思い浮かばない。
あ、ユリウスさんに聞いてみればいいんですか。
「あの、歪みの影響って具体的にはどんなことが起きるんですか? クレイジーストームの異常以外でお願いします」
ユリウスの眉の角度が、一層急になる。
「お前何者だ」
「余所者です。あ、あとアリスさんについても教えてください。今この世界にいるアリスさんの存在って、どういうものなんですか? アリスさんがここに連れてこられたことによるアリスさんの元の世界への影響は?」
次々に質問が出てくる。
だって実在するキャラから直接お話を聞くことができるんですよ。
素晴らしい考察の機会……いえ、むしろ考察する余地がないほどの真実を知れるのです!
――真実! なんて素敵な響き!!
終わりがない考察を続けていると、真実の重要性が身にしみてわかるのだ。
自分の考えたことがあっているかの確認もしたいですしね。
「教える義務がない」
ユリウスさんはそっけなく答えた。
「けちー、教えてくれたっていいじゃありませんかー」
「……おまえは鍵を持っているのか?」
はっ、と正気に戻る。
ジャージのポケットを手でまさぐっても、何も出てこない。
万が一があってはいけないので、髪の毛もほどいて中を調べる。
「そういえばありませんね。小瓶もないです」
髪をくくり直して、ペンを手に取る。
『私鍵持ってない』と、追加で書く。
「この場合私のゲームって何になるんでしょうか。帰るか帰らないかならもう決着はついていますが」
ユリウスさんは少し考え、
「ここに来るまで、誰かに会ったか?」
「最初、気が付いたら森で倒れていました。そしてその中でエースさんと出会いました。そのあと、役なしの方々の協力によって時計塔につくことができました」
「エース……いや、あいつがそんなことするわけが」
「ないですよね。自分ですら扱いきれていないのに、他人の世話を焼いてる余裕がありませんよ」
ユリウスさんが、警戒をあらわにした表情でこっちを見てくる。
――まぁ、そりゃそうですよね。
――今こちらに来たばかりの余所者にしては、持っている知識が深すぎますもん。
それについてはおいおい説明していかなければならなくなるかもしれないが、とりあえず置いておく。
「私のことを余所者と認識すらしていなかったようですし」
私がここに来るためには、私に、物凄く執着してしまう過去が必要である。
――考えられる可能性として一番大きいのは『家族が死んだ』ですかね。
アリスもブラッドさんもグレイもきっとほかの人たちも、執着する過去には家族が関わっている。
家族はもちろんいるし、死んでしまったら悲しいけれど……。
――アリスのように思いつめるかと言われると。
――うーん、ないですね。
薄情かもしれないが、正直そこまで死を引きずるタイプではない。
時間に任せて、忘れるものは忘れる。だって脳の容量には限界があるから。
そういうスタンスで今まで生きてきた。
――だからメモが必要になってくるんですけどね。
こういうのって、案内人さんがわかれば直ぐに聞き出せますよね。
お礼も言いたいし、どなたか早く見つけたいものです。
――というか、私のためにルールも破る人ってことですよね。
――物好きな人も居たもんですね。
――私が余所者になるとか誰得なんでしょうね?
過去について他に思い当たる節もなく、私が考えこんでいると、
「犯人捜しは後だ。とりあえずお前を帰す方法を考えなければいけない」
ユリウスさんがまたそんなことを言い始めた。
あのー、私帰らないって言ってるんですけどー?

[ 6/39 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -