誰得ですか?

「よーし、たどり着きました! 流石は私!」
ようやく森を抜けだした私は、そこらへんにいる人に道を聞きまくって、どうにかこうにか時計塔の前まで来ることができました。
道を聞くなんてコミュニケーション力のいる所業を見事やってのけた私に拍手。
ぱちぱちぱちー。
コミュ障は異世界に飛ばされると治るものなのかもしれない。
皆さんも是非お試しあれ。
――しかしここで問題が。
私の前に立ちはだかるは、くそ長い階段。
覚悟はしていましたけど、実際に見ると迫力がすごいです。
万年インドア運動不足な私には、これが拷問器具のように見えてくるのだ。
とりあえず一歩目を踏み出さねばならない。
私は一段目に足をかけた。
――はじめの一歩!
少しずつ、少しずつ上へと進んでいく。
途中で休憩を挟みながらなんとか部屋の前らしきところへたどり着いた。
ちなみに息切れがすごいです。息を整えるため深呼吸をする。
――すって―は―くのがしーんこーきゅうー、すってーはー……。
「げほっ」
唾が気管支に入ったらしく、むせる。
これは想像以上に体力不足が懸念されていますね、運動しましょう
少し落ち着いたところで覚悟を決めて、ドアノブを握る。
がーんっ!! と勢いよく扉を開ける。
あ、別に驚かせようとかそんなんじゃないですよ。
ただなんかハイテンションなので、衝動が、ね?
「はじめまして、ユリウスさんですね!!」
びっくりした顔の男性が見える。
私はつかつかとユリウスさんの近くへ寄る。
パーソナルスペース侵害による緊張感を相手に与える。
「私おそらく余所者なのですが!」
「……は?」
――テラ子安!!
耳の悪い(聞き分けができない)私でも、この方の声だけは一瞬にしてわかります。
そんな感動はとりあえず置いておいてですね。
畳みかけるように言葉を繋ぎ、相手に考える隙を与えさせない。
「そして誰に連れてこられたのかも分からないのですが!」
混乱を相手に与え、YESと言わせるテクニックである。
慎重なユリウスさんには効かないかもしれないが、やるだけやる。
というか私自身混乱しているので、道連れにするというか。
――混乱のコビーアンドペースト的な。
「帰る気は微塵もありません!」
「分かった。とりあえず座れ。落ち着け」
「帰る気は! 微塵も! ありません!!」
「いいから座れ!!」
がっ、と頭を抑えられる。痛いです。
大事なことは2回言わなければなりませんのでね。
私はしぶしぶ、近くの椅子を引いて座る。
そしてユリウスを真正面から見据える。
「というわけなので、ここに滞在させて頂けないでしょうか、ユリウスさん」
「断る」
――ちっ、やっぱり効きませんでしたか。
ユリウスさんは険しい表情のまま続ける。
「いつこの世界に来た?」
「ついさっきです。時間帯が変わらないほどには最近のことです」
「そうか、いますぐ帰れ」
「帰る気ないですってば!!」
2回言っても伝わってなかったんですが!?

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