10 クィディッチ

1−10 クィディッチ

「親愛なるメアリ

 私はいつも通りの日常を過ごしているとは言えないわ。あまり詳しいことは言えないんだけど――この前の手紙の通り――トラブルが続いてる。毎日が大忙しよ。それに関連することなんだけど、スネイプの足の怪我について、なにか知っていることはない? 何が原因だとか、どこで怪我したかとか……。私たちは彼がとても気になっているの。
 クィディッチも近づいて、寮同士がピリピリしているから、お互い気をつけましょうね。

追伸
マルフォイを叩きのめしたって噂、本当?

ハーマイオニー」

「親愛なる友人へ

 スネイプ教授のことは私にもわからない。この前スリザリンの中でも話題になったんだけど、知ってる生徒は居ないみたい。トラブル、はやく解決することを祈っている。できることがあれば手伝うから知らせてね。
 私は楽しく過ごしているわ。コーディリアと厨房に忍び込んだり、勉強をしたり、図書館の本を読んだりしてる。図書館にはどんな本でもあるから、何時間でも居られるの。最高よ。
 マルフォイの話は今度会った時にしましょう。あまりにも面白すぎて手紙で話せる内容じゃないから。次の日曜日は空いている?

あなたの素敵な親友より」

11月に入って、談話室から見える湖の表面に氷が張るようになった。朝の大広間はにぎわっていて、私はスリザリンの一年生が集まっているところに座った。
「ほんとう、どんな手を使ったんだか知れたもんじゃないわね」
 ダフネがつぶやいた。どうやらポッターのクディッチチーム入りについて話しているようだった。
「ミスター・ハリー・ポッターですもの、いくらでも手はあるわ」コーディリアが言った。
「いけ好かない!」
「ポッターがシーカーなんてありえない」パンジーが言った。
「いくら有名だからってなんでも特別で通ると思ってるんでしょうね。それにあの箒――」
「ニンバス2000!」
 ミリセントが言うと、周りからあーっと声が漏れた。先日、ふくろうでポッターに箒が送られてきたのだ。
「教授からだなんて、本当に特別扱いね」
「そんなに凄い箒なの?」私は言った。
「世界で一番早い箒なのよ」
コーディリアがため息をついた。
「箒で何かが変わる?」私は怪訝に聞いた。
「変わるわよ! 速度じゃ勝てっこないわ」ダフネが興奮したように言った。
「あなたは飛ぶのへたくそだからあんまり興味ないでしょうけど」
「ディリーったら、気にしてるんだから言わないでよ」
 笑いが起こったが、それは以前の冷たい嘲笑でないことは確かだった。
「そういえば聞いた? 一昨日の夜、トロールが出たでしょう。あの後、女子トイレでポッターとグリフィンドールの子たちが、トロールに叩きのめされたって!」
 パンジーはこういった情報に明るく、いつも私達に他の寮を悪く言うためのネタを用意してくれていた。
「とんだ間抜けね」私は言った。
「寮に戻るように言われてたのに。それでグリフィンドールの点が減っていたんだわ」
「なんでもあのグレンジャーって子がまた出しゃばったらし――」
 そこでパンジーは私をちらりと見た。
「確かに彼女って出しゃばりよね」
 私が同意すると周りはあからさまにほっとした。ハーマイオニーとの文通はずっと続いていたし、彼女とは友人だが、それをスリザリンの中で特別に主張する必要はなかった。

試合の日がやってきた。今日はスリザリンとグリフィンドールが戦う予定である。
「おい、気をつけろ!」グリフィンドール生がこちらに向かって怒鳴った。
「あんたがぶつかってきたんでしょう!」コーディリアが言い返すも、上級生らしきグリフィンドール生は無視して去ってしまった。
「私はただ歩いていただけよ!」
「そういえばこの前、レイブンクローにもやられた。あいつら、気取ってていやな感じがする」ミリセントが呟いた。
スリザリンは他の寮からかなり警戒されていた。廊下を歩いているだけで難癖つけられることは頻繁ではないが珍しくもないことで、それをできる限り避けるにはある程度まとまって行動することが大事だった。クィディッチで緊張感が走る今、私たちは連れ立って移動し、できる限りの人数で集まって昼休みを過ごさなければならなかった。
「行きましょ、睨んでたってしょうがないわ」私は言った。「馬鹿らしい。あんなことしてる暇があったら試合の応援の練習をした方が有意義なのに」
 クィディッチについて私はよくわからないが、みんながここまで沸き立つということでとても興味を持っていた。スリザリンのみんなからルールは教わったが、結局その面白さに対する理解はできていなかった。
動く階段に気をつけながら移動をしていると、クィレル教授が通りがかった。
「あ、クィレル教授!」
 私は先生に駆け寄った。彼は私を見ると少しだけ笑顔を見せた。
「ミ、ミ、ミス・アーデン」
 クィレルはホグワーツに入ってからも何かと私のことを気にかけてくれた。
「教授もクィディッチ見に行きますよね。今日はどっちを応援するんですか?」
 私は笑顔で聞くと、ダフネが言葉を畳みかけた。
「もちろんスリザリンですよね!」
「わ、私は、その、公平に……」
「そんなこと言わずに、先生! 今年もスリザリンが一番とりますから。今日も朝から選手たちがすっごい意気込んでて、絶対勝つって」ダフネが言った。
「そ、そ、それは良いことです、ええ、ま、ま、誠に良い」クィレルはたどたどしく言った。「わ、わ、私はちょっと用があ、あって、もう行かねばい、いけません」
 クィレルは私たちにクィディッチを楽しむように告げると、そそくさと姿を消した。
「あなたってクィレル教授のこと好きよね」コーディリアが私に行った。
「ええ、好き。凄くいい先生だわ」
「私はあんまり好きじゃないなぁ。彼の話し方だと話の内容が入ってこなくない?」
 ダフネが言った。私は笑って同意した。
「授業向きの話し方ではないわね」

 私たちは無事にクィディッチ競技場へと向かうことができた。肌寒い風がスリザリンの応援旗をはためかせている。
ホイッスルの音と共にクィディッチの試合が始まった。実況のおかげで点数が入ったかくらいは分かりそうだった。先に点を取ったのはグリフィンドールだった。
「みて、ポッターったら木偶の棒もいいところよ」
 コーディリアの声に上を見上げると、ポッターが上空を動き回っていた。彼はクルリと宙返りをしたかと思うとまた動かなくなった。
「怖じ気づいてるんでしょ」ミリセントが言った。
「シーカーがブラッジャーに狙われないように彼は離れている。過保護な作戦だな」
 近くに居たセオドールが言った。流石は期待の新人だ、とはやす声が周りから聞こえる。
「えっと……だからポッターは金色の球を取る役割で……ブラッジャーが……」
 私がルールを思い出していると、コーディリアが心配そうにこちらを見てきた。
「やっぱりちょっと苦手みたい。黙って見てるわ」
 ハーマイオニーは『サッカーみたいなものよ』と言っていたが、私はサッカーについてもあまり知らなかった。
 突然、グリフィンドールから大きな声が聞こえてきた。同時にスリザリンからは称賛のヤジが飛んだ。
「いいぞマーカス!」「叩き落とせ!」
 何事かと目を凝らすと、どうやらポッターとスリザリンチームのリーダー、マーカス・フリントが衝突したようだった。観客たちがポッターの動きに反応していることに気づいて、私はそれからポッターを目で追う事にした。
「えー、胸糞の悪い明らかなチート行為がちょっとありましたが……」
 試合は続行された。程なくして、ポッターの箒がおかしな挙動を見せ始めた。ポッターを乗せたそれは、蛇行したかとおもえば左右にぐらつき、今まで見てきた箒の動きとは異なっていた。私はそれを得点を稼げる金のボール――なんだっけ……シニッチ?――を見つけるためのものだと思っていたが、箒がぐるぐると円を描き始めるとその予想が違っていたことに気づいた。
「見ろよ、ミスター・ポッターが箒にぶら下がってる!」
 スリザリンの面々は嬉々としてはやし立てるが、彼がこの高さから落ちることを考えると私は心拍数が上がった。もし落ちたら――もし魔法がないのなら――人間の身体はぐちゃぐちゃになる。私は路地裏で人間のそれを何回か見たことがあった。
「怖い、落ちてしまいそう」私はすっかり震えてしまっていた。「ねぇセオドール、何が起こって……」
 たまりかねてクィディッチに詳しそうなセオドールに問いかけるが、その瞬間ポッターの箒は不審な動きをしなくなった。
「あ、止まった」私はなおも彼に聞いた。「何が起こってたの?」
 彼はその問いには答えずに、競技場のある一点を指さした。
「……見ろ、スニッチだ」
 彼の指先の延長線上には、光を反射するスニッチがあった。それはとても小さく、すばやく、とてもではないが捕まえられるものではなさそうだった。

 それからは至極簡単な筋書きだった。ポッターがスニッチを捕まえたのだ。それも口で。スリザリンは負け、クィディッチ選手たちは悔しさのあまり涙しながら談話室へと帰還した。
「来年だ。来年は他の寮をぶちのめしてやろう」
 マーカスが力強い声で言うと、談話室内のスリザリン生は口々に選手に慰めの言葉をかけた。
「そういえばポッター、試合途中に変な動きしてたよな」声が聞こえてきた。
「コントロールを失ったんじゃない?」
「調子に乗るからだ」「一年生にあの箒は早すぎたんだよ、身の程知らずなんだ」
「そういうもんなの?」
私は隣に居たミリセントに聞いた。
「さぁ? でもポッターが無様だったことには変わりないでしょ」
 私はそうね、とほほ笑んで騒がしい談話室を抜け出した。

私はその夜、また夢を見た。人のすくない談話室――内装からするとグリフィンドール――に居て、ハーマイオニーの友達、ロナルド・ウィーズリーと話している夢だ。これまでに数回この夢を見たことがあり、これは決まって早めに就寝した時に起こった。今日はハーマイオニーも一緒で、私は夢の中でいつもハリー・ポッターだった。
「それで、ニコラス・フラメルって名前に聞き覚えは?」ハーマイオニーが言った。
「ちなみに私は聞いたことないわ」
「君が知らないなら僕らが知ってるわけがないだろ!」
ウィーズリーはため息をつきながら、椅子のひじ掛けにもたれかかった。
「待って……僕、どこかでその名前を聞いたことがあるんだ」
 私――ポッターが口を開いた。
「どこで?」ハーマイオニーが鋭く聞いた。
「それが思い出せない。ニコラス……ニコラス・フラメル……」
 ポッターは目を瞑って、自分の記憶を探しているようだった。
「僕が知らなくてハリーが知ってるんなら、マグルに関連した人なのかな」
「それなら私が知らないのは変よ。私、新聞を毎日読むタイプだったの」
 彼らの会話が少しずつ遠くなり、私の意識は違う夢へと旅立っていった。
まだ夜が明けないうちに目覚めると、私は自分を恥じた。グリフィンドールに組み分けされたかった自分の欲望が夢に現れているのだと感じていた。
「自分の居場所は自分で作り出さないといけないの」
私は小さく呟き、自分に言い聞かせた。


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