生活

[戻りましたー!」
水を瓶に移して、裏口から家へ入る。
「ああ、すまんなぁ」
家に戻った私に、おじいさんが声をかけてくれた。
このおじいさんは高齢のため足が悪く、歩くのにも杖が必要である。
お手伝いができて本当に良かった。
「運び終わったんかい?」
「はい、ついさっき戻ったところです」
「早いねぇ、やっぱり若いってのは良い」
そう言っておばあさんは笑った。
「さて、朝食にするよ」
今日の朝食は、ご飯とお味噌汁と梅干し。
簡素だが、結構量はある。ご飯の。
今、『ご飯』と表現したものの、私の知るご飯とは少し違う。
赤い。そしてまずい。
――ああ、白米っておいしかったんだなぁ……。
ぱさぱさしているというか、雑味があるというか。
とりあえずお味噌汁で流し込んではいるものの、どうにも慣れない味である。
ちなみにお味噌汁も、なんかちょっと違う。
梅干しなんてしょっぱすぎて涙が出そうになる。酸っぱいというより、塩辛い。
量の多いご飯も納得のいく味付けである。
――家ははちみつ漬け派だったし、そもそもあんまり漬物系なんか食べてないしね。
けれど、おじいさんとおばあさんは美味しそうに食べているのだから、きっとこれがこの時代での普通、なのだろう。
自分のいた現代がどれだけ恵まれていたのかを、身に染みて実感した。

なんとか朝食を済ませ、村に出る。
「ういー!!」
「遅―いっ」「何してたんだよー」
口々に文句を言いながら駆け寄ってくる子供を見ると、自然に笑みがこぼれた。
「ごめんね、お待たせ。何して遊ぼうか」
私は、農作業なんかもちろんやったことがないし、できない。
だからこの村の子供と遊ぶことが、一種の仕事のようになっているのだ。
とは言っても、昼は子供たちも作業に入るので遊べるのは朝と夕方のみ。
早く遊ぼう、とせっつく気持ちもよくわかる。
「鬼ごっこ!」
「私、けんけんしたい!」
「お人形遊びしようよー」
「昨日は鬼ごっこしたから、じゃあ今日はお梅ちゃんの提案の、けんけんをしようか」
「やったー!」
お梅はぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
「あしたはお人形で遊ぼうね」
人形遊びを提案した子にそう声をかけると、
「うん」
とにっこり笑ってくれた。
この村の子供は、素直でいい子たちだ。
それは大人にも言えることで、優しく、気立てがよく、そしてしっかりと今を生きている。
農作業一つとっても、統制が取れていると言ったらいいのか、つまり……。
――つまり、個人個人が自分のやるべきことを理解しているというか。
習慣の差に打ちのめされそうになっている私だけど、ここの人たちを見ていると自然と、頑張らなきゃと思うのだ。
――私も早く、できることを増やさなきゃ。
――……まぁ、元の時代に戻れたらいうことはないんだけどね。
そうこう考えているうちに子供たちは地面に円を書き終わったらしく、けんぱ、けんぱと口ずさみながら飛び跳ねている。
「次ういの番!」
「はいはーい」
スタート位置に立ち、大きく息を吸う。
「よし!」
――けんぱ、けんぱ、けんけんぱ。
この遊びのように目の前にあることを、一つずつ、しっかりと。
丁寧にしながらも、勢いをつけて。
そうすればきっと、次に進めるから。


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