習得

「……というわけなんです」
私はそのあと何回か撃って確かめた後、力のことを孫市に言うことにした。
「その、見えた景色というのはどういったものだ」
「いろいろありましたけど、村の風景だったり、雑賀衆の中庭で鍛錬している光景だったり、誰かと話しているところだったり……」
孫市がまっすぐ私を見つめてくる。
「美しいものだけじゃなくて、人が血まみれで倒れている景色もありましたし、何か大きな建物が燃えているようなものもあって……」
みえているときは大丈夫だが、思い返すと私自身の感情がでてくる。
口の中が酸っぱくなって、唾液が染み出してきた。
「正直、気持ちの良いものではないものが大半でした」
「そうか」
孫市はそういって考えるそぶりを見せた。
「その建物には心当たりがあるのか?」
「いえ、初めて見ました。全体的に金色が印象的で、金の扉、金の大きな彫刻、金の鐘、あと、可笑しなことですがいたるところに小判が落ちていたりして……」
みえたものを必死で思い返して、伝える。
「……」
孫市は相変わらず無表情だったが、その瞳が少し揺らめいた気がした。
「銃はそのまま撃つこともできました」
「撃てるのか」
「はい、弾が出て的を撃つことが出来ました。ただ」
私は息を整えて、デメリットを伝えた。
「『みえる』ことを抑えないと引き金を引けません。あと撃った瞬間、物凄い量の今までに『みえた』時に感じたことが、一気に……。ですので、かなり消耗が激しく、今のところ一度に3発が限界です」
「……」
孫市の瞳は、揺らいだままだった。

それから数日。私は何とか5発を撃てるようになった。
――まだ全然、実戦では使えないレベルだけどね。
それを孫市に見せると彼女は唐突に話し始めた。
「前、見えたと言っていた建物だが」
孫市は縁側に腰かけた。
「十中八九本願寺だろう」
「……どこですか?」
「雑賀と縁のある寺だ」
促されて私も隣に座った。爽やかな風が汗を冷やしていく。
「おそらくにはなるが、お前の見た風景は私の記憶である可能性が高い」
「き、記憶? 孫市様はそのお寺が燃えているのを目にしたんですか?」
「ああ」
「それっての、のぞき見みたいなことですよね! すみません、そんなつもりじゃ」
私が慌てて立ち上がり頭を下げると、孫市はいつもの無表情のまま、いい、と呟いた。
「孫市様の力だから、ですかね。銃を出すのは孫市様のバサラだから……」
「……今はまだ何とも言えないな。またなにかあれば報告しろ」

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