習得

緊張が部屋を支配している。今は、布陣を考えている最中だ。
どうやらまた西の方からお呼びがかかったらしい。
今回の戦には私は参加しないが、作戦などの準備には携わることになった。
孫市様曰く、昔の借りを表面上返すだけだ、とのこと。わずかの兵を貸し出すような形らしく、実戦部隊3つほどが送られる。
――この作戦も、そこまで意味のあるものではないんだよね。
実際の戦はあちら側の指示にある程度従うことになるから、布陣を考えたとてそれが採用されるかはわからない。
なので、これは本当の意味での実戦練習だ。
「こちらに陣を敷くとなると、本陣の守りが薄くなります。そこはどう対応するおつもりでしょう」
白熱する議論。考え込む人々。
「二軍三軍を配置する」
「一軍と二軍三軍との差の開き具合を見るにそれでは不十分かと」
目を閉じて、情報を整理する。
――敵はおよそ5000、たいしてこちらは20000を越えるという。
――私達が今考えるべきは、いかにこちらの被害を抑えるか……。
地形で特徴的なのは、川。両軍の間に広がる中富川。
目を開けて、私は恐る恐る手を挙げた。
「移動するという手段は使えないでしょうか」
視線が自身に集まるのを感じる。
「ほう」
「まず雑賀です。今出ている案通り、初めは川を挟んでの攻撃をします。そのあと長宗我部の軍が向こう岸へと進みます。その後雑賀が二手に分かれ、左右から援護をするのです。そうすれば隊力の開きがあろうと、さほど問題ではありません」
「なるほど、それなら雑兵をかなり雑賀のみで排除できる」
「けれど、かなり速い速度でこちらが移動する必要があるのでは?」
「はい。なので移動手段として……」
堂々と意見を言うことは、とても難しい。

中庭での鍛錬。
「……」
今までに「みえた」光景を思い返す。
何回か試してみたが、徐々に銃が出現している時間が長くなっている。
それに比例してみえる時間も長くなり、本当に様々な景色をみてきた。
光景はただみえるだけでなく、つよい感情をもたらす。
――……でも、あれはきっと私自身の感情じゃない。
たとえるなら、そう……誰かの見た景色をそのまま私が見ていて、その誰かの感情さえも一緒に映し出されているかのような。
私はそっと目を閉じた。
――集中。
手に銃を出現させ、目を閉じて両手で持ち手を握り締める。
銃の出現もかなりスムーズにできるようになったものだ。
じわりと頭の中が侵食されていく。「みえる」前兆だ。
でも今日は、みることが目的ではない。
目を大きく開いて、意識を自身に向ける。
私は腕をまっすぐに伸ばし、的に向かって銃を向けた。
――っ! 大丈夫!
火縄銃しか撃ったことがないけれど、反動の逃がし方は一緒のはずだ。
――一緒なわけないんだけど、でも、孫市様が撃ててるってことは私も大丈夫!
引き金に指をかけ、力をこめる。
「えいやっ!」
軽い衝撃とともに弾が出る。的はかこん、と鳴って倒れた。
成功だ。
けれど、頭が割れるように痛い。息が荒い。立っていられない。
いままでみえていた時に感じたものが、一緒くたになってやってきたような……。
気を失いそうになる。
「あ、う」
――冗談じゃない!!!
負けてたまるか。負けてたまるか。私は、強くなるんだ。
――私は雑賀の力になるんだ!
必死に意識を保つ。白くなる視界に反抗する。
――〜〜〜〜〜!!!
しばらくすると、頭痛が収まり地面が見えてきた。
「……よし」
まずは、最初の一歩。
最初の、一発だ。

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