習得

雑賀では、定期的に朝礼がある。
朝礼……と勝手に私が呼んでいるだけだが。
連絡事項を共有するために行われているらしい。
「報告いたします」
名前持ちが次々に報告をしていく。
この朝礼に呼ばれるのはもう3回目になるか。この緊張感にも少し慣れてきた。
報告が終わった。得られた情報を頭に叩き込んでいると、
「何かないか」
そう言って孫市が私の方を見る。
まさか話が降られるとは思っていなくて、心臓が跳ねた。
「……特に無いです」
赤面しながらそう答えた。
――孫市様の銃のこと、言った方が良いのかな……。

鍛錬の時間。私が最近挑戦しているのは銃を出し続けること。
――銃出ろ!
ずっしりとした銃を手に感じた。
集中していないと、この銃は手のひらから滑り落ちてしまうのだ。
今回は結構長い時間もっている。
――よし。……?
冷たい金属が手の温かさを奪っていくと同時になにかが内側からせりあがってくる。
吐き気かとおもったが、どうやら違う。
――これは……なに……。
心が、何かに侵食されていくようだ。
「あ……」
銃と接している手のひらが熱い。それは決して不快な熱さではなかった。
けれど視界はふらつき、立っていることが出来ない。私は地面に崩れ落ちた。
「……っく」
膝をつくと、頭に知らない光景が浮かび上がってくる。
自分の目はしっかりと地面をとらえているのだ。頭の中だけで別の「私」が何かを『みている』ような、そんな可笑しな感覚。
まず『みえた』のは山だった。ただの山ではない。
――人……?
積み重なっている。その全ては原型がわからないほどぐずぐずに崩れている。
けれど、布……衣類などで類推できる。これは、人だ。
――……胸が痛い。
私がそれを見て感じたのは、気持ち悪さなどではなく胸の痛みであった。
自分の無力さに絶望する気持ち。後悔する気持ち。
次に見えたのは焼け落ちる建物。豪奢な金箔は剥がれ、中の木は黒く焦げている。
『みえている』視点が揺れ動き、「私」は走っているのだと気づく。
――これは、焦っている……?
息遣いが荒いのは、どうやら走っていることだけが原因ではないようだ。
開けてしまった場所に出ると、その惨状がありありと実感できた。
またくるりと視点が変わり、今度は見慣れた雑賀の村。
「――!」
自らを呼ぶ声に振り向くと、笑顔の村人たちが見えた。
――今度は、安心だ。
自分の居場所がある事に心から安堵していた。
好意的に接してきてくれる彼らに「私」も笑顔を返したようだった。
次は……。
「っっ!!!」
突然『みえていた』景色が白く染まり、消える。
肩で息をして、手のひらを確かめるとそこにはまだ孫市の銃が残されていた。

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