習得

あれから少し経った早朝。
より懸命に頑張ったおかげか、私はようやく雑賀の名前持ちたちの仲間入りをすることが出来た。
――名前持ち、つまり……お偉いさん。
とはいってもまだ実力が追い付いていないので、見習いの立ち位置である。
本当はとびぬけて頭が良いやら戦いが得意やら見習いにすらなれないらしいが、さすがの特別待遇であった。
「はぁ……ドキドキする……」
今日が初めての顔合わせ。緊張で朝早く起きてしまった。
伸びをし、身支度を整えて外に出る。
ひんやりとした空気に身を震わせながら、中庭に出て体を動かす。
「ほっ……と!」
元の世界では筋肉のきの字もなかったような体だったし、今も見た目はあまり変わらないのだが格段にできることが増えた。
今、頑張っているのは回転しながら前後に移動する。
――バク転だっけ?
できるようになったら格好いいな、という理由だけで空いた時間に練習している。
が、もちろんイメージくらいしかないため、何をどう練習していいかわからない。
適当にこんな感じかな……で回っているのだがうまくいかない。
前向きに回ると、回転が足りなかったのか地面にしたたか背中を打ち付けた。
「〜〜〜!!!」
痛い。
そのまま空を見上げると、まだ暗くて星が見えた。
――……。
痛みが徐々に引いていくのと一緒に、緊張が解けていく。
目を閉じる。
深呼吸をすると肺が空気に冷やされていくのがわかる。
すると急に眠気が襲ってきて、このまま眠ってしまいたい気持ちになる。
「……よし」
しばらくそうしてから掛け声をして立ち上がり、支度をしに自分の部屋へと急いだ。

「こちら、例のかわいこちゃんだよ」
「よろしくお願いします!」
蛍さんに連れられての顔合わせ。良い意味でいつもと変りない緊張感であった。
皆さん見た目では優しそうで、安心した。
「ここに居る名前持ちは、それぞれに自分の隊を持ってる。これからあんたは、手の空いた……というか、余裕がある隊についてもらう」
「日によって隊が変わるということですか?」
「日によってというか戦ごとに、だね」
戦。これから私は、実戦をすることもあるのだ。
わかってはいたが、背筋が震えた気がした。
「大丈夫だって、最初からそんなに危険度の高いところにはいかないさ」
蛍が声をかけてくれる。恐れが見透かされているようで、恥ずかしかった。


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