覚悟

――身だしなみオッケー!
部屋の前でもう一度身なりを整える。といっても普段着なのでそこまで直すところはないのだが。
「失礼いたします、ういです」
そう言うと、中から襖を開けられて少しびっくりした。
促されて部屋の中へ入る。
「調子はどうだ」
「勉強の日々でございます」
近況報告をすると、孫市は軽くうなずきながら聞いてくれる。
鍛錬がどこまで進んでいるかなどしか話すことがないので、孫市にとってはつまらない話かもしれないな、なんて思ってしまう。
――孫市様だったら、これくらい簡単にできちゃうだろうし。
――早くもっと強くなって、雑賀の戦力になりたいのに……。
「状況はわかった。これからも励め」
「はい。あの……孫市様、一つご相談があるのですが」
私はそう切り出した。
「どうすれば、強くなれますか」
「強く?」
孫市はまっすぐ私を見ている。
「私、もっと強くなりたいんです。早く、孫市様のお力になりたいんです。けど、少しずつしか進めなくて、そのことに歯がゆくなってしまって」
孫市は少し視線を下げて、考え込むようなそぶりを見せた。
「バサラは心を糧にして成長する」
彼女の声は、心なしかいつもより優しいように感じた。
「覚悟と言った方がわかりやすい。自らの生き方に責任を持つという信念こそ、バサラの力を引き出すもの」
「体力をつけたいのなら走ればいい。知識を有したいのなら読めばいい。そして、力を増幅させたいなら心を磨くことを忘れるな」
「心を、磨く――」

孫市の部屋から出て自室へと戻ると、真白との会話が思い出された。
『自分より他人が気になってしょうがない、自分が出来ないのを何かのせいにする……そんな奴は、基本的に上には立てない』
『大事なのは、自分がどうしたいかだと思うぜ』
そして先ほどの、孫市の言葉。
『自らの生き方に責任を持つという信念こそ、バサラの力を引き出すもの』
『心を磨くことを忘れるな』
「どうしたいか……生き方に責任を持つ……。私は……」
孫市様と真白の言葉が頭の中で反響して、私はある一つの答えにたどり着いた。
「私は、孫市様の隣に立って戦いたい」
口に出すと、背筋が自然と伸びた。
きっと私は突然与えられた能力に、心がついていっていなかったのだ。
だから焦ってしまった。他人を厳しい視線で見てしまった。
私が今から鍛えるべきは、心だ。信念を決めて、進んでいくしかないのだ。
「そのためには何の努力も惜しまない!」
私は今ようやく、本当の意味で覚悟を決めることができた。

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