覚悟

鍛錬の時間は好きだ。何かに集中している間は、悩みなんてどうでもよくなるから。
「うい、その調子! 続けて!」
「はい!」
より一層狙いをつけて引き金を引き、息を止めてほんの一瞬待つと大きな音と共に弾が飛び出る。
火の粉や煙が顔にかかるのも、もう慣れてしまった。
――命中!
最初は詰める火薬の量を間違えてしまったりだとか、反動を逃がしきれずに肩を痛めてしまったりだとか、色々な失敗もあった。
――でも、何度も何度も練習させてもらってようやく撃てるようになった。
的の真ん中に空いた穴が、煙越しに見える。
まだ、動くものに命中させることは苦手だが、それも少しずつ確率が上がってはいる。
「ねぇ、うい。私の見てくれる?」
隣の女性が声をかけてくる。こうしてアドバイスを求められることが多々あるのだ。
一緒に学ぶ人たちは、大きく三つに分かれる。
私のことをやっかみ、嫌味を言ってくる人間。対して、私に教えを請おうとする人間。そして、私のことを全く気にかけない人間。
彼女は、教えを請うグループだ。
別に嫌というわけではないのだが、あまり容易に人に聞いてしまうのもどうかとは思う……と考えながらも、きちんと見てしまう私なのだが。
「右に重心が寄っているのだと思います。少しだけ右足を引いて、地面にまっすぐ……」
彼女が次に撃った弾は、きちんと的の中心へと吸い込まれていった。
「なるほど、ありがと! 右足を引けばいいのね」
――単に引けばいいってことじゃなくて、重心のズレが原因なんだけど……。
喜ぶ彼女に訂正するのも憚られ、一度場所を他の人に代わり休憩を取る。
「うい」
「はい!」
指導役が近づいてきた。
「もう的当ては完璧だな」
「お陰様です」
「いやいや、本当に呑み込みが早い」
「……ありがとうございます」
複雑な気持ちでお礼を言う。
「実は頭領から呼び出しが来てる。行くか?」
「いっっ行きます行きます!!!」
勢い込んで頷くと苦笑された。
「鍛錬後で良いとのことだったが、まぁ今日はここまでにしておいても良いだろう」
「ありがとうございます! すぐに行って参ります!」
そう言って駆けだすと、
「こら、装備装備」
「すみません!」
装備一式を慌てて外して、自室へと急いだ。

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