特別

それから3日ほどして、ようやく思い通りに体が動くようになったころには、私の部屋も移動されていて、もうすっかり新しい生活の準備が整っていた。
まだ訓練をするには体調がすぐれないということで部屋にこもりきりである。少し退屈。
「あんたがういかい?」
部屋で文字の勉強をしていると、体格の良い女性が顔を出す。
「はい」
「私は蛍。一応雑賀集では上の方を任せてもらってる。あんたのお世話係を頼まれたからね、なんかあったら何でも言いな」
「よろしくお願いいたします、蛍さん」
挨拶が終わると、蛍はにっかりと明るく笑った。
「まだ本調子じゃないんだろ、これでも勉強しときな」
彼女が私に本を渡してくる。かなり使い込まれているようだ。
「これは……」
「あんたは今まで戦ったことが無いんだろう? なら体はもちろん、頭も鍛えていかなくちゃ。それは兵法、兵の動かし方について説明してある本だ」
ぺらりとめくってみると、たくさんの文字に図が添えてある。
(兵、法……戦争の、方法……)
「あんたはバサラ持ちなんだろう?」
「はい、そうらしいです」
「なら将来は雑賀を率いていく人物になる。しっかりと学習しろよ〜」
「えっ、私、率いるってそんな」
驚いて声をあげると、蛍はその笑顔を消さないままに答えた。
「少なくともそう“扱われる”ってことだ。終わったらその本は共同書庫に返しておいてくれ」
「あ……」
蛍はぴしゃ、と障子を閉めて行ってしまった。
(「そう扱われる」、か。すごい力を持ってるなんて、なんだか実感がわかないけど……)
(けど、私は孫市様についていくって決めたから、何事も受け入れて頑張らなきゃ)
机に向かって本を開く。
「其の、壱……」
ゆっくり指でたどりながら読んでいく。
全部読み終わるのには、かなりの時間がかかりそうだった。


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