生活

きらりきらりと、秋の優しい光が村を照らしている。
小さな子供たちが、笑い合いながら草むらに潜むバッタを捕まえて遊んでいる。
そんな平和な朝の風景は、知らず私にため息をつかせた。
――『THE・村』……って感じだよね……。
別に、嫌という訳ではない。自然がいっぱいでいいと思う。空気も綺麗そうだし。
ただ、いきなりの生活の変化に、戸惑いを隠せないだけだ。
「ういちゃん、水汲み頼むよー」
家から、おばあさんの声が聞こえる。
「はーい!」
水汲みと洗濯が、私の仕事である。
裏口に立っていた私は、急いで中へと入った。
台所の水瓶の横にある桶を取ると、からん、と軽い音がする。
「えーっと、井戸はどこだったかなー……」
慣れない着物の裾が、足にまとわりついて邪魔だった。

ここは雑賀の村。私の育った和歌山とは、場所こそ同じらしいが、まったく違った場所。
私は、気がつくとこの村にある大きな屋敷、雑賀荘にいた。
近くの道で倒れていたのを村人が発見したらしい。
雑賀荘で起きてから、何が起こっているのか分かるのに、随分と時間がかかった。
『ここは雑賀の村だ』
私を起こしてくれた人は、そう言った。
その後、その人とじっくり話し合い、ようやく事の次第が飲み込めて来た。
私は、タイムスリップをしてしまったらしいのだ。
――なんて、非現実的な。
そう思わずにはいられなかったが、私がここにいるという事実がすべてを物語っていた。

井戸につくと、村の人があいさつをしてくれる。
ここ、雑賀の村は優しい人たちでいっぱいだ。
「あらういちゃん、おはよう」
「おはようございます」
井戸の周りに村のおばさんたちが集まって話をしている。
――これが、本当の『井戸端会議』!?
なんだか深く感動してしまった。
「ああ、ごめんね。つい話がはずんじゃって」
そういって井戸を開けてくれる。
「ありがとうございます」
井戸のふちに置いてある釣瓶を井戸の中に落とすと、からからと小気味よい音を立ててそれが下へと降りていく。
ちなみに、これを引き上げるのはなかなかに重い。
苦労しながら、水のたっぷり入った桶を井戸のふちに置く。
――うわー……。やっぱり濁ってるな……。
この井戸というのが、私は不安でならない。
まず、釣瓶とそれについている紐がぬめっている。お風呂掃除の時に感じるあの嫌なぬめぬめ感がする。
カビとかそういった系の、嫌悪を感じるものである。
そして何より水が綺麗ではない。
決して泥水という訳ではないのだが、綺麗な水道水に慣れているこちらとしては、飲用には若干……いや大分と遠慮したいものである。
――沸騰させれば大丈夫……大丈夫……。
自分に言い聞かせる。昨日の夜の美味しい味噌汁だって、この水で作ったものなのだ。
タイムスリップらしき経験をして、この時代に来てから少し経った。
私はこの時代にやってきてから、雑賀の村のある家でお世話になっている。
「よいしょ……っと」
水がいっぱいに入った桶を担ぐ。結構な重労働である。
――うう、筋肉痛になりそうだなぁ……。
おばさんたちに会釈をして、その場を離れる。
家へ帰る道を歩いていると、近くに住む子供たちが遊んで遊んで、とじゃれてくる。
「またお昼になったらね、今は水汲みの最中だから」
「ええー?」
「もうちょっと待っててね」
水汲みが終われば、夕方まで私のやるべきことはない。
子供たちと早く遊ぼうと、家までの道を走ろうとも思ったが、やっぱり裾が邪魔でこけてしまいそうだったので諦めた。


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