遠征

何日か歩き、ようやく目的地に着いた。
準備を手伝い、雑賀集は戦闘へと赴く。
私達はお留守番。言ってしまえば休憩時間である。
――ほかの方たちは命を懸けて戦っていらっしゃるのに……。
出発の際の失言もあり、いたたまれない気持ちになってしまう。
複雑な思いを抱えながら待機場所でふらふらしていると、どこかに出かけていた真白が戻ってきて私に声をかけた。
「うい、こっち。良い場所見つけたんだ!」
「え、ちょっと!?」
手を引かれて連れて行かれる。たどり着いたのは、大きな木であった。
その木にするすると登る彼女。ういもおいで、と言われて四苦八苦しながら彼女が座っている太い枝までたどり着いた。
「わぁ……っ!」
高いこの場所からは、戦闘がよく見える。真白が私をここに連れてきた意味がよく分かった。
「な、ちょうどいいだろ」
得意げに言う彼女に、そうだね、と返す。
自然と私の視線は孫市を追っていた。
――孫市様が戦っていらっしゃるところ初めて見た……。
孫市の身に着けている腰布が揺れて、また敵が倒れていく。
ここから孫市までは距離があるので、倒れた敵があまり見えないので気分が悪くなったりはしなかった。
ただ、孫市の無駄のない美しい動きに見とれていた。
――もちろん目立つっていうのもあるけど……。
――この状況、『運動場にいる好きな男子を教室から見つめる女の子』みたい……。
そう思うと突如顔が熱くなり、孫市から目をそらす。
「格好いいな、孫市様」
真白が言った。私が無言でうなずくと、彼女は話し始めた。
「私も、雑賀衆目指してた。子供のころから男らに混じって、稽古を受けてさ」
真白は雑賀で生まれた、とこの前言っていた。そうか、だから彼女は男っぽい話方をするのだ。文字通り小さなころから、彼女は雑賀集にいたのだ。彼女が雑賀の人間から『やや』と呼ばれる理由が今ようやく理解できた。
「でも……やっぱり違った。仲間はどんどん強くなっていくのに、私は、成長できなかった」
小さな声で、女だから、と彼女はつぶやいた。
「もちろん、雑賀衆にも女の人はいる。けど下っ端にはほとんどいない」
どうして、と聞くと真白は言葉をつづけた。
「ああやって戦えるのもある種の才能だ。孫市様は特殊だけど、それ以外の上層部の女性も孫市様に近いものを持ってる。言い換えれば、そこまでの突出した才能がなければ、雑賀じゃやっていけない。男は、まぁ言い方は悪いけどさ、正直体力と筋力でどうにだってできる」
一般的に体力面で女性は男性に劣る。それを覆すくらいの何かがないと、雑賀衆には入れない。彼女が言っているのはそういうことだ。
真白は小さくため息をついた。
「ごめん、変な話しちゃったな」
「ううん、気にしないで」
彼女の言っていることが、強く心に響き、どう返していいかわからずに少し目線をそらす。
そんな私を見て、真白は明るい声で言った。
「あ、まだあきらめてないからな、雑賀衆。何のためにこんなところで飯炊きやってると思ってんだよって、あいつらに言ってやりたいぜ」
真白はこちらを見てにっと笑った。
「少しでも稽古や鍛錬、実戦を見て、その技を盗む。できることは少ないけど、村を守るくらいなら私も協力できるからな」
その瞳に、私は吸い寄せられた。
――強い。真白は、強い。
置いていかれているのが分かっていて、それに食らいついていくのは並大抵の精神力ではできなことだ。
この時代で異質な私だけが、弱い。
――このままじゃ、駄目だ。
変わらなきゃ、ここで生きていけない。
「わ、私も強くなりたい!」
真白の腕をぎゅっとつかむ。
「今度行くときは私も行かせて。私だって……雑賀のために何かできるようになりたい!」
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべてくれた。
「よし、じゃあ二人で稽古しようぜ! 私はいつも、夜に抜け出してやってんだ」
――ああ、だから毎朝眠そうなのか。
「ありがとう!」
私も笑顔を浮かべていた。

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