遠征

朝。
「頭領、全部隊準備整いました」
「では出発する」
鋭い声が響き、孫市を筆頭に雑賀荘の門から次々と雑賀集が出てくる。
「そういやういって遠征初めてだよな?」
「うん、楽しみ」
私と真白は門のすぐ前に立ち、それを見送る。
私の返答を聞いた真白は少し複雑そうな顔をした。
「楽しみ……。まぁそうか。正直、私たちが戦うわけじゃねぇしな」
「あっ、ごめんなさい。そういうつもりじゃ」
たしかに楽しみという言葉は不謹慎であろう。
反乱を抑えろという依頼が来たらしく、雑賀集は今から遠征へ出かける。
――えーっと、何て名前だったかな……。
――毛利……。うーん……なんとかさん。
相変わらず私は馬鹿のままである。どうも人の名前を覚えるのが苦手だ。
「今回は武将と戦うわけでもないし、大したことない戦だからな。すぐに終わるさ」
「そうだと良いんだけど」
列が全て出たことを確認して、門を閉める。
そして貨物を乗せた手押し車を押す人達と共に、私たちも出発する。
ごろごろと振動がこちらまで伝わってくる。足裏が少しかゆくなった。
「ういちゃん、疲れたらいつでも乗りなよ」
「ありがとうございます」
車を押す人は優しく声をかけてくれる。
「乗せろ」
真白が歩きながら車によりかかる。
「ややは山猿のような頑丈な体があるだろ」
「誰が山猿だって?」
賑やかに行列は続く。
――でも、戦わない私が、こんなところでへばってちゃだめだよね。
私はぴんと背筋を伸ばした。

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