遠征

「真白! 廊下は走らない!!」
「羨ましいならお前も走れよ」
「羨ましいとかじゃないから!!」
何か月か経ち、私はいろいろなことができるようになった。
あれから、元の世界でも類を見ないほど必死に勉強し、この時代の文字を読めるようになった。
学校であれほど勉強していたら、どんなにか賢くなったことかと思う。
――書くのはまだ練習中だけど。
暗号もしっかりと解読できるようになった。
最初は間者であるとわかった人と普通に接することが難しかったけれど、今では何のことはない。
――私って成長したな……。
何もできなかったころとは大違いだ。
しかし、元の私とどんどんかけ離れていくことに、少し不安を感じるときもある。
いつものように掃除洗濯を終わらせ、真白は村へ情報収集のために出かける。
「うい、ちょっと行ってくるわ。報告よろしくな」
「まかせて!」
私はうきうきしながら身だしなみを整える。
孫市への報告は、私の一番好きな仕事だ。
――だって孫市様に会えるから!
真白も孫市が大好きなので、報告は交代で行うことにしている。
髪をしっかりととかし、孫市の部屋に向かう。
「孫市様、ういでございます」
目上の人を訪問するときの礼儀なんかも、だいぶんとできるようになった。
最初は気恥ずかしかったのだが、こういうものは慣れが物をいう。
「入れ」
障子をすっと開け、ゆっくりと中に入る。
「孫市様、この間の羽柴の者の件ですが……」
孫市は私の話を最後まで聞くと、美しい眉をひそめた。
そして人を呼び、指示を出す。
その姿は何度見ても格好良く、目が離せない。
「明後日の朝から中国へと向かうことになった。最大規模だ」
「承知いたしました。支度を整えてまいります」
最大規模、つまり雑賀集総出ということである。
果たして何の依頼だろうか。
静かに一礼をして、足早に部屋へと戻る。
総出の遠征の時は私たちも、お世話係としてついていくことが多い。
やることは雑賀荘にいるときとほとんど変わらない。
料理と雑用、あとは傷の治療くらいである。
――真白が帰ってきたら、遠征を知らせて、持っていく食料の表をもらって……。
――戦う人に、しっかり支援できるように準備しないとね。
私は先ほどの孫市を思い浮かべ、微笑んだ。

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