巻物

朝起きると隣の布団に真白はいなかった。
いつも私の方が早く起きるので、一瞬寝坊したか、と不安になった。
「真白、今日は早いのね」
「ゆっくり眠れたからな。ういはいつものこの時間か?」
「うん大体このくらいだよ」
縁側の真白の隣に座る。
心地よい朝の風が、私の髪を揺らした。
「あのね真白、昨日の話のことなんだけど……」
彼女は私の方を向いた。緊張している風にも見えた。
「私、文字が読めないの」
真白が驚いた表情をする。
「……すまん、てっきり読めるものだと思ってた」
「読めないことはないんだけど、少し私の知っている文字と違うっていうか……。
ふにゃふにゃって続けてあると難しいの。一つずつなら分かるよ」
「なら、そっから始めるしかないな」
彼女は微笑んだ。
まずは一安心である。
「孫市様はこのこと知ってらっしゃるのか?」
「ううん、知らないと思う。でも、私が文字を読めるっていうことも考えてないんじゃないかな」
「そうなのか?」
真白は庭へ下り立ち、枝で地面に何かを書き出す。
「続けると難しいってことは、これは駄目でも」
どうやら文字のようだ。けれど……。
「こういうのは読める?」
「あっ、読みやすくなった!」
いつもの文字より崩れていない。どうにか読むことができた。
「なるほどね、まぁ、これはこつさえつかめば何とかなる」
「こっちの読みやすい方は何が違うの?」
「こっちは絶対に間違えて読んじゃいけねぇ公文書とかに使われるやつだ。でも、こっちのほうが早いだろ?」
真白は横にいつものような文字を書く。
「まぁ、確かにね」
私も庭に座り込み、真白の描いた二種類の文字を見比べる。
どう変化していても、元は日本語である。
――だったら、日本人である私だって読めるはず。
「本とかあれば、自分で勉強するよ。真白も忙しいだろうし」
「ん。じゃあ若葉さんとこから適当なの借りてくるな」
「ありがとう」
ちょうど
「……そろそろ時間だね」
「ああ、今日もしっかり働こうな、うい」

[ 16/40 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -