巻物

就寝時間になると、真白は棚から何かを探し始めた。
もともと入っていた着替えやら書物やらお菓子やらをすべて床に置いていく。
そして何もなくなった棚に両手を突っ込み、がたがたと棚を揺らした。
「んー、ここをこうして……」
がたり、と大きな音。
「えっ、何してるの?」
たまりかねてそう声をかける。
「探し物。あー、長らく使ってねぇうちに立て付け悪くなりやがって」
ぶつぶつと文句を言いながら真白が取り出したものは、3つの巻物であった。
「これを明後日までに全部覚えろ」
真白はそう言い放つと、その巻物を私に渡した。
びっくりして中を開けてみると――
「……これ何?」
「私が作った、『虎の巻』。今から説明するけど、わからないとこあったら私に聞いて」
たくさんの文字と数字が、小さな文字で紙いっぱいに書かれてある。
彼女は巻物を一つとって、しゅるりとそれを開けた。
「今からういに教えるのは、その手紙の中にある本当の意味を見つけることだ。わかりやすく言えば暗号ってことになる」
「あ、暗号?」
「例えば今日の昼預かった手紙。よく見てみろ」
真白の指さした部分をじっと見てみると……。
「なんか印がついてる?」
「小さな針で穴をあけてある。これは初歩的な方法だから、穴が開いているところをそのまま順にたどれば読めちまう」
文字は読めないものの、真白の言っている意味は分かる。
寒気が背筋に走った。
「それってつまり、今日お昼に会った男の人が、その……」
「そう、あいつは間者だ。こちらの情報を向こうに伝えている」
真白は平然としてあの男が間者であることを私に伝えた。
「知ってて、どうして雑賀集から追い出さないの?」
「決まってんだろ、そっちのほうが情報を扱いやすいからだ」
私は実感した。今まで気立てよく接してくれた、この仕事友達。
彼女もまた、戦国時代を生きる人間の一人なのだと。
「流してもいい情報は向こうに流す、知られてはいけないことは流さない。時には手紙を書き換えて、偽の情報を掴ませたりする」
「この仕事を私がやっているのを知る人は孫市様唯一人。そして今日からお前も含めて二人だ。絶対に誰にも言うなよ」
私はぶんぶんと縦に頭を振った。
「じゃあ説明を始めるからな。これは数字を使って文字を表す方法だ。この表みたいに二つの数字で一つの仮名を対応させてあって……」
「こっちは仮名二文字で一つの文字を……」
「いろは順に一つずつか二つずつずらしてあって……」
真白は私にいろいろな暗号を教えてくれた。
現代で友達と手紙のやり取りをするときに使うような簡単なものから、まったく聞いたことのない、発想が豊かで思わず感心してしまうものまであった。
今からいろいろしてもらうけど、と真白は最後に優しく、
「取り敢えず手紙を解読できるようにならなくちゃ、話になんねぇ。頑張りな」
私は渡された巻物をぎゅっと抱え込んだ。
何が何だかわからなかった。混乱していた。
真白が布団を敷き始めたので、私もあわてて就寝準備を始めた。

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