不注意

「お前が、その子供に話をしたな?」
「はい、しました」
その子は、まだ情報が入っていないようなことまで細かく語ったという。
子供の記憶力を舐めていた私が馬鹿でした。
「知っていたのか、何が起こるかを」
「……はい」
「ならば、これから何が起こるかも分かるのか」
「お、大まかな流れは知っています」
話せ、と孫市が言うのでおぼろげな記憶をたどりながら話をする。
「織田信長が死んだので、その家臣の豊臣秀吉が明智光秀を討とうと……」
「豊臣秀吉?」
怪訝そうな声で孫市が尋ねる。
――え、間違ってたっけ!?
とたんに冷や汗が出て来た。なんてたってあんまり興味がなかったもので……!
「……羽柴か?」
――羽柴……!?
――聞いたことあるような……ないような。
「えっと、おそらく」
羽柴秀吉。なんとなくしっくりくるということは、合っているということか。
どのタイミングで苗字変わったのか、私には全然わからないが。
「羽柴は今、山崎に向かっているはずだが」
地名言われてもわからない。
――こんなことなら、学校の社会の時間もっと真面目に聞いておけばよかったなぁ……。
と、何度目かの後悔。
私、ここに来てから後悔ばっかりしている気がする。
「詳しいことはよく分かりませんが、確か、その用事を早く終わらせて、討伐に行ったような……」
「そして、成功するのだな?」
「はい」
「その後は」
「秀吉が織田信長に代わって、日本を統治するように……なります」
ぐらいの知識しか持ち合わせていない。
小学生レベル……いや、小学生にも負けてるかもしれない。
しかし孫市は感心したように、
「なるほど」
とうなずいてくれた。ちょっと嬉しい。
「実は先ほど、羽柴から文が来た。明智討伐の援助要請の文だ」
――さっき私が言ってたやつだ!
なんだか変な感じだ。
「その話が本当なら、これに乗らない手はないな。担中!」
「はっ」
すぐに男の人の返事が聞こえた。
障子が開き、そこにひざまずいていたのは先ほど案内してくださった方。
――もしかして、ずっとそこにいたの!?
「明智討伐だ。準備を」
「承知いたしました。すぐに手配いたします」
素早い動きで男が去る。
――わー、忍者みたーい。忍者見たことないけど。
あ、この時代なら忍者いるんじゃないだろうか。
もしいるなら会ってみたい。
「うい」
孫市に名を呼ばれ、あわてて返事をする。
「は、はい!」
「お前のおかげで決断ができた。礼を言おう」
きゅ、と手袋(?)をはめなおしている。
今から討伐に行くのだろう。
「いえ、すみません、あまり知識がなくて……」
「いや、助かった。引き続きけが人の治療を頼む」
「はい!」
孫市はくるりと背を向けて行ってしまう。
――孫市様は、堂々としていて格好良くて。
――こんな怖気づいてる私とは大違い。
――あんな人に、なりたい。
私はよし、と声を出した。
けが人の治療を、逃げずに頑張ろうと思った。

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