打撃

「おかゆとおにぎり作るから、ういちゃんはおかゆお願いね。鍋はこれ使って」
「はい」
さっきの井戸まで行って水を汲んだ後、炊事場へと連れていかれ、今に至る。
ふつふつ煮えて来たおかゆをかき混ぜていると、女性が話しかけてくる。
「それにしても、織田軍が途中で帰って行って本当に助かったね」
火加減を調節しながら、相槌を打つ。
「途中で?」
「ああ、そうさ。今回はけっこう全力だったらしくてねぇ、最初なんか第六天魔王まで出て来たっていうんだから……」
今回は、ということは前も攻めてきたことがあるということであろう。
――よっぽど雑賀集って織田信長に嫌われてるんだなぁ。
――って、魔王!? 何それファンタジー!?
勝手に私の脳内がゲームとかによくある悪魔のような形をした敵を作り出す。
「それで、孫市様が討たれて、さすがの雑賀衆も結構苦戦してたって話だよ」
「へぇ……」
――孫市様っていうと、雑賀衆のお偉いさんかぁ。
――撃たれてって、大丈夫なのかな?
――さっきの部屋にいたんだろうか。
ぐるぐるとおかゆをかき混ぜながら、いろいろと考えてみる。
状況があまりわからない私は、話を聞くことしかできない。
「でも、あと一押しってところで織田軍がなぜか帰って行っちゃって」
「どうしてでしょうね」
だいぶんとおかゆらしくなってきた。少しすくって食べてみる。
――あー、ちょっと芯が残ってる。
――もうちょっとかなー。
「あ、そろそろかね」
よいせ、と女性も立ち上がり、お米の方の釜のふたを開けた。

「並んで並んで!!」
飯だ、と周りが色めき立つ。
私は動けない患者さんのところまでおかゆを運んでいる。
「大丈夫ですか? 起き上がれますか?」
「ああ、大丈夫……つぅっ」
「おかゆです。ゆっくり食べてくださいね」
「どうもありがとう」
ゆっくりとさじを使って食べ始める男の人を見て、少し安心する。
私のしたことが少しでも皆の助けになるのは、もちろん嬉しいことだ。
「うい!」
「お梅ちゃん」
お梅がおにぎりを二つ持ってこちらへ駆けてくる。
「ういも食べて。はい」
「ありがと」
「うん」
ちょうどおかゆを配り終えたところだったので、とてもありがたい。
お梅は私に大きい方のおにぎりを渡すと、私の隣に座ってもう一つを食べだした。
私も座って、おにぎりを味わう。美味しい。
「お父さんは無事だった?」
お梅は一瞬口ごもり、少し離れた場所を指さした。
「……あっちにいるよ」
――あそこは。
「あ……ご、ごめんなさい」
戦死者の遺体が置かれている場所。
家族や友人との永遠の別れを惜しむ人が絶えないその場所を、彼女は無表情に見つめていた。
お梅は気にしないで、とおにぎりを食べ続ける。
「悪いのは織田だよ。ういじゃない」
だから謝らなくていいよ、と言って自分の指についたご飯粒を舐めとった。
私のおにぎりは、味がしなくなっていた。
「私、雑賀集に入りたい」
お梅はそう言った。
「ととみたいに、最後まで戦い抜ける人になりたい」
彼女の目に涙が浮かぶことはなかった。

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