打撃

そして翌朝。
村はほとんどの家が被害を受けていた。
畑も、倒れた柵やがれきで埋まっているところが少なからずある。
私の住まわせてもらっていた家はなんとか無事だったものの、おじいさんとおばあさんにはまだ会えていない状況であった。
「ういちゃん、行くよー!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
草履を急いで履く。いまだに慣れない。
――昨日の鼻緒ずれが痛くて……。
昨日のうちは少し歩き方を変えて、擦れたところに当たらないようにしていた。
それが裏目に出て、親指と人差し指の付け根の広範囲が真っ赤になってしまい、じんじんと痛むようになってしまった。
「お待たせしました」
「ああ、はよ行かんとね。今回はけが人多いらしいからなぁ」
「はい」
どうやら集まるのは私が一番遅かったらしく、移動が始まる。
今から、雑賀衆の皆さんの手助けに行く。
けが人の治療や、炊事をするらしい。
少しでも力になれればと、私も手伝うことにした。
「おはようございます」
「ああ、ういちゃん。おはよう」
「元気そうで良かったよ」
声をかけてくれる村の人たちは、やはりというか、疲れた顔をしていた。
けれど不思議と、暗い気持ちにはならなかった。

「腕あげますね」
「ああ」
「布巻きますから、動かないでください」
けが人はこの大きな部屋に溢れかえっている。
軽傷の人はもう復帰して村の修復を手伝っているはずなので、ここにいるのはいわゆる、重症の人達。
ぬらり、と空気が血の香りを帯びている。
呼吸のたびに、重い香りが肺に巡ってくる。
かすり傷ならまだしも、こんなに深い傷にお目にかかるのは初めてである。
固まりつつある黒い血の上を、鮮やかな色の血が流れ落ちる。
肉の断面が、時には骨まで見える。
これでも内臓や目が出ていないだけましだ、と雑賀衆の男性は笑った。
私は二人目に治療を施した後、こっそりとその場を抜け出した。
震える手を胸の前で抱きかかえる。
――ああ、私は、違う世界に来てしまったんだ。
目を閉じると、血の赤と、肉のぐじゅりとした感覚がよみがえる。
気が遠のきそうになりながらも、鼓動だけが速くなっていくのが怖かった。
どうにか井戸を探して、血の付いた手を洗う。
でも、なんだか綺麗になった気がしなくて、何度も何度も手に水をかけた。
濡れた冷たい手を顔にひたりと当てると、少し落ち着きを取り戻すことができた。
――よし、戻らないと。
――……そろそろ、治療もひと段落したかな。
逃げるような思考を持つ自分を、恥ずかしく思った。
恐る恐る部屋に戻ってみると、村の女性が一人出て来た。顔見知りである。
「ういちゃん、炊き出し手伝ってくれるかい?」
「はい、もちろんです」
正直、とっても嬉しかった。
これ以上あの部屋にいると気がおかしくなりそうだ。
――でも、慣れないといけないんだよね。
少なくとも、この時代にいる限りは。
どうやってこの時代に来たかわからない以上、戻る方法が見つかるわけもない。
私はできるなら今にでも私の時代に帰りたかった。
自分の弱さが、自分自身を押しつぶしてしまいそうだった。

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