襲撃

こっちこっち、と引っ張られるまま、ついていく。
そうするうちに雑賀衆の大きな屋敷についた。
その中の部屋が、避難所になっているようだ。
身を寄せ合うようにして、村の女性と子供と、けが人、病人がいた。
私とお梅は、部屋の隅っこの方に座った。
部屋のなかはひそひそとした話し声と、赤ん坊の泣き声しかなく、静かである。
時折、ドーンという重い音が遠くで響く。まるで花火の音のようである。
この時代の戦いって、時代劇とか大河ドラマでちらりとしか見たことがないけど……。
刀でばっさばっさ切っていくのだろうか。
この爆発音、銃とか大砲なんかはもうあるのだろうか。
――暴れん坊将軍なら見てたんだけどな……。
時代がちょっと違うよね、うん。もうちょっと後なはず。
おばあさんやおじいさんはどうしているんだろうか。
特におじいさんは足が悪いから、ちゃんと避難できているか不安である。
「お梅ちゃん、家族の人は?」
「かかはいない。ととは戦いに行ってる。雑賀衆に入ってるから」
ということはお梅の父は今まさに戦闘中ということか。
友達の家族が参加していると思うと、少し戦いというものが近くなった気がした。
「ととは強いから、大丈夫だよ。織田なんかぼこぼこにできるって言ってた」
「そっか」
――織田……?
歴史系の知識に疎い私でも、それくらいは聞いたことがある。
「織田って、織田信長?」
「うん」
少ない知識をしぼって考える。
戦国武将とかがとても好きな友達がいて、彼女の話をよく聞かされていた。
話半分に聞いていたので、覚えていることは少ないが。
――織田信長……織田信長……本能寺の変?
本能寺の変は確か……。
1582年! 『イチゴパンツの明智光秀』だ!
よし、あまりにインパクトとの強い語呂合わせだったので覚えていた。
とにかく、その『本能寺の変』で織田信長が死ぬわけだから、今はそれよりも前だということが分かった。
――……わかったところで何ができるというわけじゃないけど。
「お梅ちゃん、大丈夫だからね」
気落ちしているらしいお梅に声をかける。
「……うん」
やっぱり声にも元気がない。
「私が赤ちゃんの時にも織田が攻めて来たんだって。ととが言ってた」
お梅は三角座りをしながら話す。
父のことが心配でならないのだろう。
気持ちは痛いほど分かる。
とは言っても、私はそんな状況になったことがないから、あくまで想像にしかすぎないけれど。
「織田なんかきらい」
そういって彼女は膝を抱えた。
その手が細かく震えているのを見て、
「……じゃあ、お話をしてあげる。織田信長がコテンパンにやられちゃう話」
何か元気づけてあげたい。今、私にできることはこれくらいである。
「織田信長がね、あるお寺で休んでいたらね……」
『本能寺の変』のお話をしてあげる。
先のことを教えてしまうのは良くないかもしれないが、大人になれば忘れてくれることだろう。
「家来なのに?」
「そう、家来なのに。それでね……」
話を進め、信長が『是非もなし』、と自害したところまでで終わった。
――……あってるよね? 是非もなしだったよね?
間違ってたらごめんね、と心の中で詫びる。
こんなことなら友達の話をしっかりと覚えておくべきだった。
「へー、面白いねー!」
お梅は無邪気に喜んでくれた。
「もっとお話しして!」
「どんな話が良い?」
とはいったものの、戦国時代のお話なんてこれ以上知らない。
後は豊臣秀吉の信長の草履温めてたやつくらいしかしらないなぁ。
「じゃあね……面白いの!」
うん、ちょっとほっとした。
とは言っても、桃太郎とか一寸法師とかは意外性がなさ過ぎてつまらない。
もっと何か、私だけにできそうなお話と言えば……。
「むかーしむかし、あるところに……」
外国の童話はきっとまだ伝わっていないに違いない。
私は『白雪姫』を選んだ。
ところどころ日本風に変えながら、どうにか最後まで行くことができた。
「そうして白雪姫は幸せになりました。おしまい」
目を輝かせて、話に聞き入っていたお梅。
立身出世系の話は昔も受けたらしい。安心した。
「もっともっと!」
「じゃあ次は、お菓子の家のお話ね」
そう、『ヘンゼルとグレーテル』。これならお菓子を和菓子にしてしまえば大丈夫。
――あ、私、和菓子あんまり知らないや。
もうちょっと考えて話を選ぶべきだった。
「お菓子の家!? 大福!?」
――大福!? 大福の家ってどうなの?あり?
――無しかな? 崩れちゃうよね。
あと和菓子……。
羊羹も軟らかくて家にできそうにないし……
「……おせんべいにしよう」
「ええー!? おせんべいの家―!?」
「ある親子が森の中に住んでいてね……」
そうして、時は過ぎていく。





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