襲撃

そうして、少しずつ村での生活に慣れて来たある日のことだった。
いきなり、カーンカラーンと大きな鐘の音が聞こえた。
「え?」
確かあの方向には大きな建物があったはず。
――建物という言い方があっているかは知らないけど。
何事かとあたりを見回す。
家から村人がなんだなんだと出てくる。
そのとき、音がした方向から一人の人が駆けて来た。
ひどく慌てている様子である。
その人は息も整えず、
「敵襲だ! 織田が攻めて来たぞ!!」
と声の限りに叫んだ。
その言葉に村人たちが動き出す。
「織田だって!?」
「また来たのか! よし、返り討ちにしてやる!!」
「鍬持って来い!」
周りの男性たちはこぞって鍬やらなんか穀物を収穫する道具を持ち、村のあちこちに散らばり何か準備をしていた。
状況が全く分からない私は、どうすればいいのかわからず立ち尽くしていた。
ばくばくと心臓がうるさい。
――敵襲? ってことは、結構危ない状況なんじゃない!?
――災害の時のマニュアルとかないのかな?
逃げればいいのか、それとも、何かお手伝いをするべきなのかわからず、かといってここで立っているのも通行の邪魔になりそうだ。
「ういちゃん、なに突っ立ってるんだい!」
おばさんが声をかけてくれた。
隣の家に住んでいる、気立てのいいお母さん。
いつも笑っているその顔からの鋭い視線が私を射抜く。
「あの、私何をすれば……」
「敵襲の時には女子供は避難するんだ。ういちゃんもはよ逃げて!」
「はい!」
おばさんは家の方に向かっている。
きっと子供を助けに行ったんだろう。
――って、ちょっと待って。
「どこへ行けばいいんですかー!?」
そう、肝心の避難場所を聞いていない。
絶賛後悔中である。
柱の近くとか、トイレの中とか、端っこの方へ行けば……!
――ってそれ地震! 地震だよ私! 落ち着け私!
とりあえず人の流れるほうについていこうとあたりを見回すものの、女性は見当たらない。
「うい!」
「お梅ちゃん!」
よく遊んであげている、近所の子供。
「ういも戦うの?」
まん丸の目を向けながら言われる。
「ううん、逃げようとしてるんだけど、場所がわからなくて」
「そ、じゃあこっちだよ」
腕をつかまれる。
「雑賀荘の近くにあるの、逃げるところ」
その小さな手が、今は何よりも頼もしかった。
彼女が走り出すのに引っ張られる形になって、私たちは避難場所に急いだ。
非常時なので着物の裾を気にしなくていい分、速く走れた。
草履の鼻緒は擦れて痛いけれども。
「……ありがとう」
手を引かれながらそうつぶやく。
「うい」
手の握られ方が、少し強くなった。
ちょっと痛いくらいに、しっかりとつかまれている。
「大丈夫だから、もうすぐだからね」
「うん」
おそらく怖がっていると思われたのだろう。
――まぁ、怖くないわけはないけどね。
幼い子供に心配されている自分を、少し情けなく思った。
やはりまだ私は、助けられてばかりだ。


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