出発の朝がやってきた。 その日もよく晴れていた。 まだ太陽は高く、夏の名残を残している。 「本当に、大丈夫か?」 と心配そうにリディナに話しかけるのはスネイプだ。 学校ではほかの生徒には厳しくとも、やはり娘にはとびきり甘い。 「大丈夫よ、父さま。9と3/4番線でしょ? 行き方も教えてもらったし、絶対大丈夫よ!」 一方のリディナはこれから乗るホグワーツ特急に思いを馳せている。 元来、生徒は皆ホグワーツ特急で学校へ向かうことになっている。 リディナも例に漏れず、そのつもりだったのだが昨晩スネイプから持ちかけられた。 「やはり我輩とホグワーツに行かないか?」 もちろん自分を心配して言ってくれるのもリディナにはわかっている。 それはとても嬉しいことではあるのだが、スネイプとの『約束』を優先したいのだ。 「父さま、心配は嬉しいけど・・私特別扱いは嫌なの」 「・・・・うっ」 「父さまも言ったでしょ? 特別扱いしないようにしたいって・・ 私は今日からリディナ・プリンスなのよ?」 子供とは気が付いたら成長しているものなのか、とスネイプは自分の行動を嘲笑た。 そして娘が立派に成長したのが、また嬉しかった。 「・・・・すまなかった」 小さな声で謝ると、今度は真面目な表情でリディナを見た。 「いつの間にか大きくなったのだなリディナ」 「父さま、ありがとう」 出発の時間が近づくと、二人とも言葉が口から出なかった。 今生の別れではないにせよ、学校へ行ったら父と娘の関係は控えなければならない。 そう思うと、二人の時間を少しでも噛みしめたかった。 「父さま、そろそろ時間です・・」 時とは無情にも進むものだ、とスネイプは思いながらリディナを見た。 「リディナ、これから学校で生活をするわけだ・・・ 場合によっては厳しく当たるかも知れないが、いいか?」 「父さま・・いえ、スネイプ教授。お手柔らかにお願いします」 ニコッとリディナが微笑みながら言ったので、スネイプも教師の顔で対応した。 「気をつけて行け、ホグワーツで待ってますぞMs.プリンス・・」 「いってきます!」 父と娘の少しの別れである。 リディナが出て行った扉を少し見つめた後、スネイプも自分の準備に取り掛かった。 準備とはいうもののほとんどは済ませてある為、最終確認だ。 忘れ物がないかを確認し、トランクを閉めると 「これから忙しくなるな・・・」 と小さく呟き、自宅の鍵を閉めてホグワーツへと向かった。 壁のトンネルを抜け、無事に9と3/4番線に到着したリディナは荷物を駅員に預け、列車の中にいた。 少し早く出てきたつもりでも、列車の中は人でいっぱいだ。 なんとか空いているコンパートメント席を見つけ、そこに陣取った。 「いよいよなのね・・」 刻々と迫る発車時間にリディナの胸は高鳴った。 (父さま、母さまいってきます!) |