あのあと、手紙を離さないリディナに朝食を食べさせるのは骨が折れた。 やっとテーブルに着いた彼女を見て、コップに冷たいオレンジジュースを注ぎリディナに渡した。 「父さま、今日はお時間ありますか?」 口の中をジュースで流し込み、一息ついた後リディナはスネイプにそう尋ねた。 様子を窺うように聞いてみてはいるが、そのキラキラと期待に満ちた瞳を見れば、リディナが言いたいことなどすぐわかる。 「今日は何か用事でもありましたかな?」 リディナの考えなど手に取るようにわかるスネイプだが、そこはあえて意地悪く恍けて答える。 「手紙に学校で必要なものが書いてあったの。だから・・・」 そこまで言いかけて、リディナはスネイプの顔をみた。 そこには、娘の困った顔を楽しむかのようにニヤリと笑みを浮かべるスネイプがいた。 「もう、父さまのいじわる!」 「おや?ではリディナは意地悪な我輩とは買い物に行かないということですかな?」 ああ言えば、こう言う。 リディナの前ではホグワーツのスネイプ教授の影はどこにも見えない。 娘の困った顔や、喜ぶ顔を見るのが好きなただの父親なのである。 「冗談だ、リディナ。 それより支度をしなくていいのか、出かけるのだろう?」 スネイプがそう言うとリディナはハッと気がついたのか大急ぎで食器を片し 出かける準備をするため、二階の自室へと駆け上がった。 「漏れ鍋!」 白いワンピースを着たリディナをスネイプは黒いローブの内へ招き、しっかり掴まるように言うとはっきりとした声で目的地を告げた。 ほんの一瞬だが、リディナはこの瞬間が好きだった。 どこかへ出かけると実感させてくれる瞬間だったから。 それに、いつもより近くで父を感じる事ができるから。 あっという間に目的の場所、ロンドンの漏れ鍋にスネイプとリディナは到着した。 「ちょっと待っていろ」 そうスネイプは言うとカウンターの主人になにやら話を聞いているようだった。 二、三言会話を交わした後すぐにリディナのところに戻り行くぞ、と声をかけた。 漏れ鍋の裏口からレンガの入り口を開く。 目の前に広がるのがダイアゴン横町だ。 幸いまだ入学準備の子供たちは少ないが、それでも十分過ぎるくらい人がいて活気が溢れている。 「えっと・・・まずは」 小さなポシェットから入学案内の手紙を取り出し、リディナはう〜ん…と悩んだような声を出した。 「父さま、どうしよう。何から買えばいいのかしら?」 悩んでいると言うか楽しすぎて困っている感じだ。 「そう言うときは上から買っていけばいいだろう。まずは・・・」 「制服!ホグワーツの制服ね!」 スネイプの助言で悩みを脱したリディナはウキウキとしながら洋品店へと向かった。 (制服は少し大きめに作りたいわ、とくに胸の辺り!) (…成長するのか?) (もう!父さまの意地悪ッ!) |