おはなし | ナノ







人が沢山往き来している。
手には大きな荷物を持ち、笑顔を携えて家路を急ぐ。
車のクラクションも彼方此方で聞こえ、道路は大渋滞。
街はイルミネーションで彩られ、まるで魔法の世界の様。



「・・・・・キレイ」

アーケードの入り口に飾られた大きなツリーを見ながらリディナが感嘆の声を漏らした。
色とりどりの電飾で彩られ、様々な飾り付けをされたツリーはホグワーツのツリーにも引けをとらないくらい素晴らしかった。


「マグルのクリスマスは初めてだったか?」

後ろから聞こえた声にリディナはツリーを見上げるのを止め、振り返った。

「父さま!」

ここは、ロンドンの街中にあるアーケード街、もちろんクリスマスムード一色だ。
スネイプは何時もの格好ではなく、黒いスーツにネクタイ、更に黒いコートと言うマグルの出で立ちだった。
リディナも外出用の私服にファーの着いた白いコートを着ている。

ダンブルドアの計らいでクリスマス休暇を貰ったが、リディナも帰省の許可を出していなかったので、休暇を利用して外出することにした。
魔法界では他の人に出くわす恐れもあるのでマグル界へ行くことになった。
リディナはあまりマグルの世界へ来たことが無かったのでとても嬉しそうだった。


「マグルの世界ってすごい・・魔法みたいな物がいっぱい」

今の時期は一年のうちで一番、街に活気があり色鮮やかで美しい。
かつてスネイプもルセットと来た時にはマグルの技術に感嘆したものだった。

両端にある店のショーウィンドウにはクリスマスにおすすめのアイテムが並んでおり、カップルや家族連れが眺めながら楽しそうに話をしている。

「・・・・わぁ!」

そんな中でリディナがある物を見て思わずため息のような声を漏らした。

そのショーウィンドウに展示されていたのは白い髪留め用のリボンだった。
上品な白い生地を使い、レースが飾られ翠色の石が真ん中に飾られている。
一目見てそのリボンに心奪われたリディナは暫しその場に立ち止った。

「・・・・うぅ・・」

しかしその値札に書かれた数字にリディナは言葉を失った。
そのお店はこの商店街でも歴史があるお店でアンティーク調の品物を扱っている。
そのリボンもアンティーク品らしくとてもリディナの手持ちで手が出せるものでもなかった。

「・・・リディナ?」

先を行っていたリディナがある店の前で立ち止まっているのでスネイプが声を掛けた。
突然かけられた声にビクッと肩を震わせて一瞬驚いたリディナだったが、なんでもないと取り繕った。

スネイプも特にそのことについて言及することもなく、「そうか・・」と短く言葉を発しただけだった。


咄嗟にショーウィンドウをスネイプに見せない様にしてしまったのは、あのリボンを欲しいと言い出せなかったからと言うのもあった。
今まで、自分から物を強請るということをしてこなかったのでこういう時にどう接していいか解らなかったのだ。
心なしか元気がないような感じになってしまったリディナを見かねたスネイプが声を掛けた。

「なにかありましたかな?」
「・・・え?」

リディナはどうしてそんなこと言われるのか不思議な顔をしたが、スネイプがため息をつきながら頭に手を添えた。

「なにか欲しいものでもありましたかな?」

リディナの頭を撫でながらスネイプは小さな声で言った。
一瞬、顔を明るくさせたリディナだったが少し考えた後「大丈夫・・」と力なく答えた。

その後、街を散策しその日はホグワーツに戻った。





「ハリー!、リディナー!来てよ!!」

朝一番はロンの少し五月蝿いモーニングコールで起こされた。
ロンはすでに起きており、談話室のツリーの傍で届けられたプレゼントを開けているところだった。

「君たちの分もあるよ!こっちがハリー、こっちはリディナ」

ビリビリと包装紙を破きながら告げるロンの話を聞きながら、リディナもパジャマ姿のまま談話室へと降りてきてプレゼントを見た。
ハーマイオニーとドラコから、そして宛名のない黒い包み紙に翠のリボンの箱が一つ。



「・・・・!」

ハッとしてリディナが包みを開けるとその中には昨日、街で見たあのリボンとメッセージカードが入っていた。


『たまには強請ってくれた方が父親としては嬉しいのですぞ』


カードに書かれていたのは、「メリークリスマス」というお決まりの言葉ではなくリディナにはチクリとくるお小言。
それも見覚えのある丁寧な文字で書かれていたので思わずクスリと笑ってしまった。
しかし、箱の中に綺麗に仕舞われているリボンを見ると、いてもたってもいられず、パジャマのまま談話室を飛び出した。


「父さまっ!!」

冬は特に冷える地下牢教室の隣のスネイプの私室。
ノックの音もなく、飛び込んできたリディナは嬉しさのあまりスネイプに飛びついた。

「な・・・!」

それにはさすがにスネイプも驚いたらしく、普段では聞けないような変な声をだした。

「父さまありがとう・・その・・・」
「リディナ・・・」

興奮で言葉にならないリディナが一生懸命スネイプに伝えようと頑張っているのに、スネイプは急に呆れた様な顔をした。

「その恰好で来たのか・・・・?」

指摘されたリディナが自分の今の恰好を見てパジャマ姿のままなことに漸く驚いた。

「だって、だって、嬉しかったから・・!」

「父さまが・・プレゼントが・・・!」

リディナの言ったことはやはりちゃんとした言葉にはならなかったが、スネイプは言いたいことを理解したのか、いつもの優しい父親の顔になった。

「その顔が見たかったのだよ、リディナ。メリークリスマス」

リディナもそれを聞いて笑顔でスネイプに言った。

「メリークリスマス、父さま!」





(でも、あのカードはちょっとなぁ・・・)

(リディナがもっと素直ならよかったのですぞ?)






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -