クィディッチの試合から数週間が経った。 ホグワーツは辺り一面雪化粧が済み、季節はもう冬だ。 あの日以来リディナは少し鬱ぎ込んでいた。 『・・・闇の帝王ヴォルデモートが復活した』 スネイプから聞かされたのは信じられない様な一言だった。 いくら世間に疎い者でも、魔法界に住んでいれば必ず知っている名前。 実際には名前すらも言うのを躊躇われている恐怖の存在だ。 そんな闇の帝王が復活した、とスネイプは確かに言った。 そしてハリーの命を狙っている、とも。 結果だけ言えばスネイプはハリーを危険から守っていたのだが、そうとは知らないグリフィンドール三人組はスネイプこそがヴォルデモートの手先だと思い込み、疑っていたのだった。 「はぁ・・・」 リディナが何度目になるか解らないならため息を吐いた。 ハリー、ハーマイオニー、ロンの三人は同じ寮でもあるし友達だと思っている。 しかし同じ位、否それ以上にスネイプが大切だとリディナは思っていたからこそどう立ち回って良いかで迷っていた。 たかが11歳が考える事にしては重すぎるかもしれない。 しかし、今ここで決めておかないとずっと引きずってしまうとも思ったが、何度考えても答えは出なかった。 気分を変えようと思いリディナは図書館へ行くことにした。 ひんやりとした廊下は人気がなくリディナが歩く音だけが響くが、その音すら降り積もった雪に吸収されてしまうかのように辺りは静かだった。 ふと、リディナがある扉の前で足を止めた。 その扉はホグワーツにはよくある古びた木の扉だったのだがリディナは違和感を覚えた。 「扉なんて・・こんな場所にあったかしら?」 軽くドアノブに触れると扉は音もなく開いた。 開いた先に誰か居るような気配はなかった為、恐る恐るだがリディナは中へ踏み込んだ。 その部屋は薄暗くぼんやりと辺りが見える程度の光しか差し込んでいなかった。 「・・なに・・あれ?」 部屋の中央には大きな鏡が置いてあった。 本来は布がかけられていたのか鏡の足元に落ちている。 その鏡は大きな姿見のように見えるが、なぜこんなところに置いてあるのかと思いリディナは鏡に近づいた。 「大きな鏡・・・」 リディナも姿見を持ってはいたがこんな大きなものをどんな人が使うのかと想像したら少しおかしくて口元が緩んだ。 その時、自分しか映っていない鏡の中に誰かが映りこんだ。 はっとしてリディナが鏡を見るとそこにいたのは、スネイプだった。 「父さま・・!!」 思わず叫び、振り返るがそこには誰もいない。 しかし確かにスネイプは鏡の中にいていつものように優しい笑顔を向けてくれていた。 スネイプのその顔を見るのは久しぶりだった。 学校で生活するようになってからと言うもの常になにか心配や不安がそばにあった。 こんなはずじゃなかったのに・・とリディナは小さく呟いた。 「父さま、私どうすればいいの?」 リディナが鏡の中のスネイプに話しかける。 当然だが返事はない。 ただリディナに父親としての慈愛に満ちた笑みを浮かべているだけなのだ。 それを見ているとぽろぽろと涙が頬を伝った。 そしてその場に座り込むとリディナは声を上げて泣き出してしまった。 11歳の少女にはもう考えるということが限界だった。 たくさん泣き、涙を流し、そしていつしかリディナは泣き疲れてその場で眠ってしまった。 「セブルス・・!」 勢いよく地下牢教室の扉が開かれそこへ慌てた表情のマクゴナガルが入ってきた。 何事ですか、と聞き返すが次の言葉にスネイプは血の気が引くのを感じた。 「リディナが寮に戻っていません・・どこにいるか知ってますか?」 スネイプは次の句を継ぐことができなかった。 今日に限ってまだ一回もリディナと会っていないのでどこへ行ったかも見当がつかない。 不安がスネイプの心を乱した。 「ここにも居ないのね・・校内を探しましょう」 マクゴナガルが言うより早いかスネイプは地下牢教室を飛び出していった。 「母さま・・」 どれくらい経っただろうか、辺りはすっかり暗くなり今リディナがいる部屋には月明かりが差し込み鏡とリディナを照らし出している。 ゆっくりとリディナが目を開けると頬には涙の跡が残っていた。 不思議な夢を見た。 出会ったこともないような子に話しかけられた。 その子はホグワーツの制服を着ていて真紅に黄金色のネクタイをしていた。 グリフィンドールの子なのは解った。 『リディナにとって大切な人はだあれ?』 『大切な・・・人?』 『そう!私はいるわ』 『誰なの?』 『ふふ・・・迷ってるでしょ?今のあなたは』 『え・・?』 『大切な人を一人に絞りきれなくて』 『だったらね・・一人に絞らなければいいの!みんなが大切だもん』 『でも、』 『私もそうよ。セブルスと・・リディナが大切な人よ』 『え・・・?!』 『大きくなったわね・・リディナ』 そこで目が覚めてしまった。 しかし間違いなく思ったのはあの女の子が母親であるルセットだったということだ。 目が覚めたあとのリディナは気分がすっきりとしていた。 ルセットが言った通りだ、決められないなら全部守ろう、大切な人を。 もちろん今の自分にそんな力はない。 でもできる限りのことをしよう、とリディナは決意して部屋を出ることにした。 「ありがとう、鏡さん」 そう言って鏡の部屋の扉を閉め、廊下を少し進んで振り返るとそこにもう扉はなかった。 (リディナッ!!) (父さま・・・?) (何処へ行ってたのだ!!) (その後すぐに息を切らした父さまに遭遇しました) (そして思いっきり頭を撫でまわされました) |