おはなし | ナノ







三人があの犬と謎の扉の話でもちきりの間にも、ハロウィンは目の前に迫ってきた。
リディナは少しずつ授業にも慣れてきたが、飛行術だけはどうしても苦手だった。
だからハリーがクィディッチのシーカーに選ばれたと聞いたときは素直に驚き、羨ましくもあった。

しかし、飛行術以外では成績は上々。
基礎呪文などはすでにスネイプに教えてもらっていたので呪文学の授業中はハーマイオニーとリディナだけが羽の浮遊を成功させた。


「すごいなリディナは」
「父さまが教えてくれたから」


今夜はハロウィンパーティーだ。
パーティーまでの僅かな時間リディナはレポートの提出も兼ねてスネイプのところに来ていた。
今日の授業のことを話すとスネイプは名前の頭を撫でながら褒めた。
リディナも嬉しくなってニコッと笑ったが、ふとあることを思い出し顔を綻ばすのをやめスネイプに尋ねた。

「父さま、頭が三つある犬っているんですか?」
「・・!!」

リディナが尋ねた瞬間、スネイプの表情が変わった。

「どうしてそれを・・?」

リディナがハリーたちに聞いたことを素直に話すとスネイプは黙り込んでしまった。
何か思案する様に眉間の皺を深くするスネイプを見ると、何も聞かなくてもそれが重要なことであるとリディナは理解した。
そして同時に三頭犬の存在を信じざるを得なかった。

暫しの沈黙ののちにスネイプが口を開いた。

「すまないがリディナとは言えこれを話すわけにはいかない。
ただ、今後何があってもこのことには関わってはいけない、わかったか?」

優しく諭すようでもあり、しかし真剣な表情と声にリディナははい、という言葉しか返すことはできなかった。


もう行きなさい、とスネイプに促されリディナはハロウィンパーティーの会場である大広間に向かっていた。
広間が近づくにつれて生徒の楽しそうな声が大きくなってくるが、リディナはどうしても楽しい気分にはなれなかった。
先ほどのスネイプの言葉が忘れられなかったからだ。
しかし、前を歩くハリーとロンを見つけるとその気分も少し薄らいだ。

「ハリー、ロン!」

後ろから声をかけると、二人同時に振り返りリディナと合流した。
スネイプの言葉を思い出すが、二人には伝えてはいけないと本能的に感じ他愛もない会話をしていると違和感に気が付いた。
ハーマイオニーがその場にいないのだ。

「あれ、ハーマイオニーは一緒じゃないの?」

不思議そうにリディナが尋ねるとハリーは困った顔をし、ロンは怒った口調で

「知るもんか!さ、行こ行こ」

とリディナの手を強引に引き大広間へ向かってしまったので、これ以上聞くことは叶わなかった。


大広間の中はいつもと装飾も変わり、すっかりハロウィン仕様となっていた。
それぞれの寮のテーブルにはこれまたハロウィン用のご馳走が並び、あちこちの席でおなじみの文句が聞こえてくる。
カボチャジュースはいつもと変わらないが、それでもハロウィンの雰囲気をしっかりと出してくれていた。

ハリー、ロンとご馳走を頬張りながら話をするがリディナはどうしてもひとつ空いた席が気になっていた。
やっぱり、ハーマイオニーを探しに行こうと思ったその時、大きな音を立てて扉が開くと血相を変えたクィレルが叫びながら入ってきた。

「と、トロール、トロールが侵入しましたぁぁ!!」

お知らせを、と言うや否やクィレルはその場に倒れこんだ。
広間内を一瞬沈黙が支配したかと思うと、とたんに叫び声があちこちから聞こえ阿鼻叫喚と化した。

「きゃあぁぁぁ!!!!」
「うわぁぁぁぁ!!!!」

一人、またひとりと叫び声が木霊する。
中には涙を流している子もいた。
しかしリディナは叫びも、泣きもせずにただ一点を見つめていた。
トロールのことを聞いた瞬間、リディナがスネイプをみると驚いた表情を一瞬浮かべたがすぐに何か思いついたのか険しい表情に変わった。
そしてダンブルドアが叫ぶが早いか、スネイプは職員用テーブルの近くにあった扉から素早く部屋を出てしまった。

ダンブルドアが事態を収拾し速やかに寮へ戻るように指示を出す。
監督生に従い各々の寮に戻るため列を作り広間を後にした。
しかしそんな混乱の最中、ハリーとロンがいなくなっていることにリディナは気が付かなかった。

「(父さま・・・)」

監督生の指示を受けながら流れに沿って寮に帰ってる途中にもリディナはスネイプのことを考えていた。
なぜ、あんな表情を。そしてどこへ行ったのか。

ふと気が付くとリディナは他の生徒と逸れ廊下に立っていた。
薄暗い廊下は見たことのない場所だった。
突然、廊下の突き当たりにある扉の奥で獣の咆哮が聞こえた。
そして扉が開くと黒い人物が飛び出してきた。

「父さまっ!!」

咆哮に驚いて動かなかった体が、黒い人物がスネイプだと認識した途端急に動き出した。
リディナが叫びながら駆け寄ると、スネイプは酷く驚いたような表情を浮かべたがすぐに顔を歪ませその場に俯いた。

「リディナ・・なぜここに・・・!」

駆け寄ってリディナが見たのはスネイプの右足の怪我だった。
何かにかみつかれたようなその傷は深いのか出血もかなり酷い。

「あぁ・・父さま・・・・どう、しよぅッ・・・」

思わぬ物を見てしまったリディナの眼は涙が溢れ今にも零れ落ちそうだった。
普段からは想像もできないくらい動揺し、混乱したリディナの眼から涙が零れ落ちた。
しかし床に落ちるより早く、スネイプはリディナを抱きしめ大丈夫だ、と囁いた。

「父さま・・・」
「歩けない程ではない、肩を借りるぞ」

その言葉に引き戻されたようにリディナも落ち着きを取り戻し、スネイプに肩を貸してトロールの現場へ向かうことにした。


「情けないところを見せたな・・・怪我はないかリディナ?」

道中、自分のほうが酷い怪我をしているくせにリディナを気に掛ける言葉をスネイプがかけるとリディナの眼からまた涙が零れた。





「どういうことですか、これは!」

やっと現場へ着いたとき、真っ先に聞こえたのはマクゴナガルの怒鳴り声だった。
しかしその声は怒っている中にもどこか安堵を感じた。
トロールが破壊したとみられる女子トイレは見る影もなかった。
そしてその瓦礫の中にハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がいた。
傍には気絶したトロール。
どうやらトロールを退治したらしく、三人とも傷だらけだった。

マクゴナガルが寮に戻るように指示をだし、寮へと戻らせた。
戻る前にハリーがスネイプの怪我とリディナに気が付いたらしく、少し怪訝そうな顔をしていた。



「さて・・・」

三人が帰るのを見送り、気絶したままのトロールをクィレルに任せるとマクゴナガル、スネイプ、リディナは医務室に向けて歩いていた。

「貴女はなぜここにいるのです、リディナ?」

ギロリとマクゴナガルがリディナを見た。
獅子寮の寮監なのにその目力は蛙を睨む蛇のようだとリディナは思った。

「・・寮へ戻るときにみんなと逸れて迷ってしまい・・」
「我輩と偶然出くわしたのだ」

言葉尻の途切れたリディナの後をスネイプが続けた。
確かに出くわしたのは偶然だから間違ってはいない。

「そうですか、まぁ今回は緊急のことなので不問にしますが・・
あまりお父様が心配だからと言って、危険なことに首を突っ込んではいけませんよリディナ?」

マクゴナガルが少し厳しめに忠告をし、ダンブルドアに報告があるからと校長室前で別れた。
その後、医務室に到着しマダム・ポンフリーにスネイプを預けるとリディナも大人しくグリフィンドールへと戻った。






(父さま・・・)

(母さま、どうか父さまを守ってください)






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