れもねーど
●Halloweenの夜に/零様より
「マツバさん」
自宅のベランダの外。夜風に当てられながらポツリと声を漏らす。
こんなこと、呟いたってあえるはずがないのに。
今頃忙しく働いているであろう年上の彼を思い浮かべながらハア、と深くため息を吐き出した。
あいたい、なあ。
「雅広」
「へ、え・・・?」
ギュウ、と後ろから強く抱きしめられ身体が強張る。
しかしすぐにその声と温かさがが聞きなれた、そして求めていたものだと気がつき力を抜く。
首筋にマツバさんの猫毛みたいに柔らかい髪があたりくすぐったい。
身をよじりながら声を出して笑った。
「マツバさん!」
「ごめんね、寂しかった?」
耳元で囁くように言うマツバさんにゾクリと背筋に電流が走る。
夜の、冷たい空気に晒された肌が寒い。だけど、密着した部分だけはまるで燃えるように熱かった。
「マツバさん、Trick or Treat」
顔だけ後ろを向いてニヤリと笑って見せれば目を丸めるマツバさんと目が合う。
その間抜けな顔に喉の奥で笑ってやればちょっとだけ強めに頭をグリグリと撫でられた。
クルリと身体を反転してマツバさんと向かい合う。マツバさんはポケットから何かを取り出すと俺の手のひらの上に小さなそれを落とした。
「・・・飴?」
「そう。Happy Halloween」
レモン味の飴、であっているのだろうか。
表紙に描かれたレモンの絵を見つめ、少しだけ息を吐く。なんだ、失敗か。
まさかマツバさんが何かを用意しているだなんて、誰が思うか。
もらったばかりの飴を口の中に放り込み、舌の上で転がす。甘酸っぱい、レモンの味が口内に広がっていく。おいしい。
「雅広、」
「?なんですか」
俺の頬を両手で包むマツバさん。
自然と視線は絡み、顔は近づく。闇の色みたいなマツバさんの瞳はとても不思議で、そして吸い込まれそう。
ああ、キス―される、かも。
「Trick or Treat」
「・・・う、」
用意、してませんなんて、誰が言えるか。
まさかマツバさんに言われることになるなんて。必死にポケットの中を漁るも何も出てこない。
ニコリと微笑むマツバさんにすみません、と呟けば何がと問い返された。
「何が、って・・・」
「むしろイタズラしたかったし。なくてよかった」
カアと顔に熱が集まる。
なんてことをこの人はサラリと言ってのけるんだ!
真っ赤にした顔を見られたくないと顔を背ければ半強制的に顔を向かい合わせられ、そして唇を重ねられた。
「っ、」
ペロ、と唇の隙間をなぞられて、その熱い舌につい口を開く。
そういえばそうだった、飴・・・。
気がついたときには既に遅し。口内に侵入した自分のものでない舌は俺の口内にある飴を転がしたり自分の口内へもっていったり。
想像しただけで顔が熱くなる行為をずうっと繰り返していった。
「ん、っは・・・マ、ツバさ・・・!」
「ん・・・、ごめんね」
すっかり熱によって溶けてしまった飴に気がつき無理やり顔を背ける。
マツバさんは口元を舌で舐め取ると申し訳なさそうに頭をかいた。その姿さえ様になる。口元を抑えながら、身体の熱を逃がそうとベランダの壁よりかかった。
夜風が冷たく頬を撫ぜ、心地よかった。
「・・・好きだよ、雅広」
重なる手。
すっかり冷え切ったマツバさんの手のひらに包み込まれた手は熱を持ち始め、なんとなく空を仰いだ。
「俺も、好き。マツバさん」
こんなハロウィンも、いいなと思った。
Halloweenの夜に大好きと
(この夜が永遠でありますよう)
END
“君と歩く道”の零様からいただきました!
ハロウィンの企画と聞いて飛び付くようにリクエストさせてもらいましたら、こんな素敵なハロウィン話を書いてくれました(*´∇`)
零様、ありがとうございました!