時をかけるN
□ 接触 1/10
視覚は封じられていた。
それでももう無駄な抵抗をすることはやめた。
諦めではなく、視覚以外の感覚を全て活用して少しでも手がかりを得るために。
「ようこそ」
久々に解放された視覚が、少しずつ目の前の光景を明らかにしていく。
Nが連れてこられたのは、どこかの部屋の中だった。
天井の蛍光灯はごく普通に点いているが、どこか暗い印象を受ける。
薄い灰色に囲まれた部屋。
そこにある中で一番大きなデスクを使っている男が居た。
「おや? 抵抗はしないようですね」
慇懃に話しかけてくる男は、一見優しそうな雰囲気があるが、それでもやはりどこか違う雰囲気を放っていた。
「…………」
Nは沈黙だけを返した。
「アポロ、やっぱりホウオウのほうは無理だったぜ。あんな羽だけじゃあうんともすんとも言わねぇ」
ラムダがNの腕を掴んだまま、男――アポロに話しかけた。
「そうですか。まぁ元々そちらの計画は本来の計画のための、いわば布石に過ぎませんからね。過去に存在しているものを現在に持ってこれることが証明できただけでも十分です」
アポロが、Nに近付いてきた。
Nは挑戦的な眼差しで、自分より頭一つ分背の高いアポロを見上げた。
「それに今は、ホウオウよりもあなたのほうが興味深いですしね……?」
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