時をかけるN
□ 隠したカード 1/7
また、さっきのような男が来たのか。
Nは若干の焦りを感じつつ、振り返った。
「なんだ、ロケット団じゃねーのか」
「……! キミは……」
Nを呼んだのはさっきのような黒ずくめの人間では無かった。
赤い髪の、少年。
自分は彼を見たことがあると、すぐに分かった。
だってついさっき、一回りも二回りも幼い赤い髪の子供を見たばかりなのだから。
「オレのこと知ってんのか?」
赤髪の少年が訝しげに問う。
自分でも気付かないほどに、少年の顔を凝視していたのだ。
最後に見た泣き顔の面影は見つけられなく、つり目で気の強そうな少年がそこには居た。
「ううん……知らないよ」
自分は彼を“たまたま見た”だけであって、彼のことは何も知らない。ただ、大きな背中を持った父親をもっていることしか。
ほんの一瞬だけ、あの背中と自分の父親だった背中が記憶の中で重なった。
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