時をかけるN
□ 最優先事項 5/10
マツバが足音を立てず二人から離れたのは、木々に隠れた人影を視界の端に捉えたからだった。
中途半端な丈の白いマントに、紫色のスーツを纏うその人影に。
「……ミナキ、くん?」
マツバは舗装されていない地面を少し進み、人影に向かって呼びかける。
その人影はマツバの呼びかけに反応し、姿を現した。
「おお、マツバ! ようやく見つけたぞ。ここへは関係者以外入れないからこうやって裏から忍び込んでみたのだが、会えてよかった」
「それ、犯罪だよ」
「うーむ……そこは特別だ! 見逃してくれよ!」
苦笑いで両手を合わせて懇願する様子を見て、マツバはにっこりと微笑んだ。
「そうだなぁ……仏の顔も三度までって言うけど、僕は仏じゃないし」
「何――うわっ!」
己の足下の異変に、思わず声を上げる。
みるみるうちに、自分の影が地面から離れ、立体化していったのだ。
信じがたい光景。
「だからね、二度はないよ?」
・・・
ついに影だったものは本来繋がっている場所を離れ、ゲンガーへと変化した。
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