時をかけるN
□ 接触 5/10
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痛い。
それでも、口は開かなかった。
「ふん……見かけなよらず、なかなか強情なようですね。庇っても無駄だと言っているのに」
檻。
二人が入っていてもまだまだ余裕がある、広い檻にNは入れられていた。
「まぁ人質くらいにはなるでしょうし、暫くここで大人しくしていなさい。直にあなたのお仲間もここに来るかもしれませんがね……」
冷血な微笑を浮かべ、ランスは檻に鍵をかけて去っていった。
「…………痛っ」
一人になり、改めて痛みを痛感する。
特に深い傷は無いが、一つ一つの小さな傷が動く度に悲鳴を上げた。
『私は一度に吹き出す血を見るよりも、静かにじわじわと流れる血を眺めるほうが好きなんですよ。だからあなたの体を少しずつ赤に染めていくのは、至高の楽しみとなるでしょうね……?』
本当にそんなことをする人間がいるなんて。
まるで、幼い頃からNが見てきたトモダチのように残酷に扱われ――
幾多の切り傷よりも、それ以上に大きな傷をもっていたトモダチが脳裏にフラッシュバックすることが、Nの心を痛ませた。
「もっと酷いことをされ、苦しめられていたんだ……」
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