時をかけるN
□ 宣戦布告 8/11
建物を出ると、視界を一面の紅葉が占めた。
「わ……」
こんな状況なのに、Nは束の間その情景に見惚れてしまった。
イッシュ地方でも秋は様々な自然の色が見れるが、これはその比ではないと感じた。
そしてその道の先にそびえ立つスズの塔は、遠くで見るよりえもいわれぬ迫力があった。
何百年もそこに在り続けたであろう貫禄が、Nを圧倒した。
塔の入り口には、一人の僧侶が居た。
のんびりと地面を掃いている様子からは、何の危機感も感じ取れない。
塔の内部で何かが起こっているのだろうか。
コトネとヒビキも、顔を強張らせた。
「中へ入ってもよろしいですか」
マツバが、その僧侶に落ち着いた口調で聞いた。
「申し訳ありませんが、只今中で木材の破損部の修復作業を行っておりますので、暫く立ち入り禁止となります」
「そんなっ……」
コトネがもどかしそうな声を漏らしたが、マツバによって遮られた。
「そう。じゃあ――ここで洗いざらい吐いてもらおうか」
一瞬誰の声か分からないほど低い声で、マツバが僧侶に言ったのだ。
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