時をかけるN
□ 宣戦布告 6/11
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エンジュの玄関と言われる、大きな鳥居の前に着いた。
「誰も……居ない」
Nの一言は、その状況を簡単かつ明確に表していた。
「逃がしたね」
コトネが悔しげに言う。
「でも、帰ったんじゃなくてエンジュの中に入ったのかも……」
ヒビキが一つの可能性を示唆する。
「ここまで来る途中に黒服なんて居なかったもん」
その可能性はコトネによって一蹴されるが、マツバはそうしなかった。
「待って……エンジュにロケット団が来るとしたら、目的は…………」
マツバは独り言のように呟き、目を閉じた。
「――皆! スズの塔だ!」
眼を開き、マツバは叫んだ。
「急ごう!」
マツバの一声で、一同は走って道を引き返した。
マツバの中に何かもう一つの可能性が見えたのだろう。
走るマツバの横顔は、ヒビキやコトネですら初めてみるようなそれだった。
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