時をかけるN
□ エンジュシティ 10/10
Nはマツバの屋敷で、申し分のないほどの賄いを受けた。
ジョウトの食材をふんだんに使った夕食は、Nの腹を充分に満たし、初体験の檜風呂はその体をも満たしてくれた。
マツバは客人用の部屋に布団をひかせ、Nと軽い会話を交わしてから自身も自室へ帰っていった。
布団に入ったNは、自分の眼には珍しい畳に囲まれた部屋を横目に、微かに箪笥の匂いを感じていた。どれをとっても純和風といった雰囲気がして、新鮮な気持ちだった。
「ゾロア、おやすみ」
明日はセレビィを知る少年に会う……。それが何を意味することになるのか。
そもそもこうしている“現在”はNの“現在”ではないのだ。
異なる時間軸の存在がここにあっていいのだろうか。小さな変動でもNの“現在”との誤差が生じてしまうのではないだろうか。
その数式を解く答えは、未だ行方知らずだった。
難しいことを考えている割には、慣れないことに神経を使ったりしたことに旅疲れも相まって、瞼を閉じればすぐにNは眠りの世界へ落ちていった。
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