時をかけるN
□ エンジュシティ 2/10
「ここを抜けるとエンジュだよ」
本当にエンジュシティは程近かったようだ。まだ歩いて十分程度で、大きな鳥居のようなものが見えてきた。
「わぁ……」
エンジュシティの土を踏んで、素直な詠嘆が口から零れた。
純粋な感動を示すNを隣から眺め、マツバは嬉しそうに目を細めた。
「コガネみたいに派手やかなものはないけれど、いい町だろう?」
「はい。そう思います」
風趣に富んだ町並みは、まさに古くからそこにあったと思われる伝統を感じさせる。
しかしそれらの風情は、余所者すらも温かく迎え入れてくれるような情味を感じる。
イッシュのヒウンやライモンでは人々が忙しなく歩いていたが、ここの人々は、景観を楽しむようにそれぞれゆっくりと歩を運んでいるようにみえた。
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