時をかけるN
□ 隠したカード 6/7
「ですが、」
男は続けた。
「ロケット団はまだ終わりません」
少年の目が、驚きで見開かれる。
その反応を見て、男からは再び余裕の籠もった笑みが浮かんできた。
「……!?」
「強いといっても、やはりまだまだ子供ですね――確かに勝負はあなたの勝ちです。しかし勝敗だけで物事が決まると思ったら大間違いですよ」
男の真意を見せない口調が、勝利の喜びを噛み締めていた少年の心を混乱へ導く。
「一体どういう……? まさか、サカキが戻った!?」
「残念ながらハズレです。しかしそれも近い未来にアタリになるでしょう……こんなところで呼びかけなくとも、きっと」
男はそう言い残すと、少年から目線を外した。
そのとき、男の後ろにあった非常口と書かれた扉が勢いよく開いた。
「アポロ! 言われた通りにやったきたわよ!」
外からの風が一気に入ってきて、少年の前髪を激しく揺らす。
アポロは素早く非常口を出て、外に控えていたゴルバットに手を伸ばす。
「さらばです」
「……!」
帽子が飛んでいかないように片手で押さえたが、少年は突然のことに足が動かなかった。
直後、バサッ、と翼が羽撃つ音。
それはだんだんと遠退いて、風の音だけが残った。
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